妻の陳述書が決め手になって、労災認定・建設アスベスト給付金認定が得られた防水工の事案
2023.11.17【事案の概要】
長年、一人親方の防水工として働いてきたAさんは、2015(平成27)年3月に肺がんを発症し、わずか9か月後の同年12月、亡くなりました。
2022(令和4)年1月、妻のBさんから、建設アスベスト給付金のニュースを見て、当弁護団に電話相談がありました。
担当弁護士は、まず、Bさんに「病院にカルテが残っているか」確認するようアドバイスしました。
というのも、アスベストによる肺がんなら補償が受けられる可能性がありますが、カルテの保存期間は5年だからです。Aさんは亡くなってからすでに6年以上経っていましたが、幸いカルテは残っており、「胸膜プラーク」があったことも分かりました。
次に、Aさんの防水工としての職歴は、以下のとおりでした。
1966(昭和41)年~1968(昭和43)年 X防水
1969(昭和44)年~1971(昭和46)年 Y防水
1972(昭和47)年~2015(平成27)年 A商会(一人親方)
X防水とY防水では従業員(労働者)として働いていましたが、厚生年金の加入歴はなく、雇われていたことを証明する資料はありませんでした。
一方、「A商会」の屋号で一人親方として働いていた43年間のうち、1990(平成2)年から2015(平成27)年までは、労災特別加入していたことが分かりました。
担当弁護士は、Bさんの代理人として、K労基署長宛に死亡後5年経過後でも請求できる「労災時効救済」(石綿健康被害救済法に基づく特別遺族年金給付)の申請を行いました。
その後、Y防水の元同僚Cさんの連絡先が判明。担当弁護士から手紙を出して協力をお願いしたところ、Y防水で従業員(労働者)として働いていたことや、防水工事の作業内容、石綿ばく露状況(石綿の吹付作業や石綿板の切断作業が行われている現場で防水工事に従事し、石綿粉じんにばく露したこと)などについて詳しい陳述書を作成してもらうことができました。
この間、Aさんが一人親方として働いていた期間、特に労災特別加入していた期間について、取引先や同業者をあたってみましたが、具体的な作業内容や石綿ばく露状況は分かりませんでした。
ところで、アスベストによる肺がんは、(労災特別加入期間を含む)労働者としての石綿ばく露作業期間が10年以上あるかどうかで労災認定基準が異なり、10年未満の場合は厳しい医学的要件が求められます。元同僚Cさんの陳述書により、Y防水で労働者として石綿ばく露作業に従事したことが証明できましたが、その期間は1969(昭和44)年~1971(昭和46)年の2年間しかありませんでした。
また、建設アスベスト給付金の対象となる防水工事は、1975(昭和50)年10月1日以降の屋内作業ですが、この期間について、Aさんの具体的な作業内容や石綿ばく露状況を証明してくれる人はいませんでした。
Aさんが、A商会(一人親方)として独立した1972(昭和47)年以降も防水工事に従事していたことは、妻のBさんが一番良く知っています。しかし、Bさんは、現場に行ったことはなく、Aさんの作業を見たことはありませんでした。
ただ、Aさんから、ビルや工場などの防水工事をしていたことや、解体・改修工事の現場もあると聞いていたこと、いつもほこりまみれで帰宅していたこと、自宅に工具や材料を保管しておく倉庫があったことなどを陳述書に記載して労基署に提出しました。
2022(令和4)年2月の労災申請から約半年後、K労基署では判断がつかないとして、厚生労働省の本省協議にかけられました。その後の2023(令和5)年3月、ようやくAさんの肺がん死亡について労災認定されました。
個人情報開示請求により労災記録を確認したところ、1969(昭和44)年~1971(昭和46)年のY防水の2年間と、1990(平成2)年から2015(平成27)年)の25年間、石綿ばく露作業に従事したと認定されていました。A商会での作業については、「解体・改修工事現場等での防水工事に従事した際に石綿ばく露があったものと推認される」と記載されていました。Bさんの陳述書が決め手になっていたのです。
その後、Bさんは、情報提供サービスを利用して建設アスベスト給付金を請求。こちらもBさんの陳述書が決め手になり、1975(昭和50)年10月1日以降に解体・改修工事現場等で防水工事に従事したとして、請求から5か月後に無事認定されました。
【本件のポイント】
本件は、仕事に関する客観的な資料がほとんどなく、一人親方の労災特別加入歴はあったものの、具体的な石綿ばく露作業に関する第三者の証明はありませんでした。Y防水に関するCさんの陳述書だけでは、建設アスベスト給付金の対象にはならず、厳しい医学的要件が要求されるため労災認定も難しかったかも知れません。
一般に、親族の陳述書だけで簡単に労災認定されるわけではなく、担当弁護士としては、Aさんの作業内容や石綿ばく露状況について、Cさんの詳しい陳述書があったことと相まって認められたものと推測しています。とは言え、決め手になったのは妻・Bさんの陳述書でした。
Bさんは、Aさんの死後、仕事関係の書類を廃棄していたこともあり、もともと何の補償も受けられないものと思いながら「ダメ元」で当弁護団に電話されたそうです。諦めずに相談して良かった、Aさんが遺してくれたお金を大事に使いますと喜んでくださいました。
(執筆担当:弁護士 伊藤明子)
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