審査請求により肺がんの原発性を否定する労災不支給決定が覆され、石綿による原発性肺がんとして労災認定に至った事案
【事案の概要】
故Aさんは、親族が経営する会社での在職中、パイプへの保温作業に従事され、その後、2016年に肺がんで亡くなりました。
Xさんは、故Aさんの遺族として、労災遺族補償請求をしましたが、故Aさんの肺がんについて、アスベストばく露による原発性肺がんとの認定ができないとして、労災不支給決定を受けました。
これに対し、Xさんが審査請求を行ったところ、審査請求において、故Aさんの肺がんが原発性肺がんであることが認定され、労災不支給決定が取り消されました。これにより、Xさんは、故Aさんの肺がんについて、労災支給決定を受け、無事に労災遺族補償給付を受けることができました。
【本件のポイント】
最初の労災不支給決定において、故Aさんの肺がんの原発性が否定されたのは、故Aさんの肺がんの原発部位を特定するためのMRI検査等の検査が実施されていないことによるものでした。
しかし、故Aさんは、死因となった肺がんに罹患するまで、がんに罹患したことはありませんでした。また、最初の労災不支給決定においても認定されていたとおり、故Aさんは、長年にわたって建築現場でのパイプへの保温作業において、断熱材を取り付ける作業に従事し、アスベストにばく露していました。
審査請求では、上記の諸事情に基づいて、故Aさんの肺がんについて、アスベストによる原発性肺がんであるとの認定がされました。
Xさんは、故Aさんの肺がんの原発部位を特定するためのMRI検査等の検査が実施されていないことから、労災不支給決定を覆すのは困難であると覚悟しつつ、審査請求をされましたが、最終的には、審査請求を経て、労災遺族補償給付を受けるに至りました。
故Aさんの事案に限らず、肺がんの原発部位を特定するためのMRI検査等の検査が実施されていない事案であっても、被災者の方のアスベストばく露作業の状況や、就労先でのアスベスト被害の発生状況などの諸事情から、労災認定に至ることもあります。
被災者の方の体調面での事情から確定診断に必要となる諸検査が十分になされなかった場合や、医療機関に診療録や検体などが残されていないような場合でも、被災者の方のアスベストばく露作業の状況や、就労先でのアスベスト被害の発生状況などを明らかにすることによって、労災認定に至る可能性もあります。
アスベストばく露作業に従事し、肺がんを発症された方は、当弁護団までご相談ください。
(執筆担当:弁護士 西本哲也)