サイディング作業による石綿ばく露事案で国と和解した事例(建設アスベスト訴訟)
1 事案の概要
被災者のTさんは、昭和60年頃から平成18年頃まで20年間にわたり、戸建住宅のサイディング作業に従事しました。
Tさんは、アスベストが含まれるサイディング材を電ノコで切断したり、研磨したりする作業の中で、アスベストの粉じんに大量にばく露し、平成30年に悪性胸膜中皮腫に罹患。診断からわずか6ヶ月後の令和元年に74歳で亡くなりました。Tさんの遺族は、Tさんが建設作業から被った被害について、建設アスベスト訴訟の原告として国と建材メーカーを提訴しました。
2 最高裁判決にもとづく当初の国の対応
令和3年5月17日の建設アスベスト訴訟最高裁判決は、屋外作業場での石綿粉じんばく露濃度は、風などの自然換気により薄められるため、屋内作業場の測定結果を大きく下回ることなどを理由として、国と建材メーカーが危険性を認識することはできなかったとし、いずれの責任も否定しました。
そのためTさんのケースでも、国は、最高裁判決の結論だけを理由に、外壁材の取付け(サイディング作業)に従事したTさんは屋外作業者であるとして、すぐには和解には応じませんでした。
3 和解に向けた活動
しかし、そもそも建設現場では様々な職種が共同して一連の作業を行っており、屋内か屋外かという区分け自体が実態に合いません。現に、屋根工など屋外作業に従事した時間が長い職種であっても、石綿関連疾患を発症しているのですから、屋外作業であれば石綿粉じんばく露がほとんどないかのような判断自体が不当です。全国で正しい判断を求める裁判が繰り広げられています。
また、Tさんは、建設現場での作業場所の制約や、他の建築作業者の作業と調整しなければならない関係で、屋根や壁で囲まれたガレージの中でサイディングを切断したり研磨する作業を行っていました。そのため、弁護団では、Tさんの当時の同僚や一緒に作業をしていた親族から、こうしたサイディング作業の実態を詳細に聴き取り、証拠化して主張立証しました。その結果、Tさんの被害は屋内作業場で行われた作業によるものとして、無事、国との和解が成立しました。
4 おわりに
Tさんの事案のように、屋外に使用される建材(屋根や外壁などの外壁材)を取り扱う職種であっても、実際には屋内で切断加工されている方は少なくありません。
これらの建材を主に取り扱う職種の方でも、その職種名だけで諦めず、まずは当弁護団にご相談ください。一緒に事案を解明し、適切な被害救済が得られるよう尽力いたします。