審査請求で労災不支給決定を覆し、石綿による肺がん・胸膜プラークありとして労災認定が得られた事案
【事案の概要】
Xさんは、1963年から建設現場での配管工事や鉄骨組立工事、解体工事等の仕事をしてきましたが、2018年、72歳頃から、息苦しさや体力の急激な低下でほとんど現場に出られなくなりました。年々息苦しさが酷くなってきたことから、2020年6月に、弁護団が紹介した専門医を受診したところ、肺がん及び石綿肺と診断されました。
Xさんは、石綿ばく露が原因で肺がんを患ったとして、同年8月に、ご自身で労災申請を行いました。
ところが、労働基準監督署は、Xさんの肺がんは「石綿による疾病の認定要件」を満たさないとして、2021年4月26日、労災の不支給決定を行いました。
そこで、2021年6月に当弁護団が受任して、不服申立の手続きを行いました。
労働基準監督署は、Xさんの石綿ばく露期間が14年8ヶ月以上に及ぶと認定しながらも、Xさんの肺がんは「石綿肺、胸膜プラーク、石綿小体または石綿繊維、びまん性胸膜肥厚等のいずれの医学的所見も認められない」と不支給の意見を述べました。
これに対し、弁護団は、複数の協力医にXさんの画像を読影してもらい、意見を聞いた上で、「石綿肺及びプラーク所見はいずれも認められる」と主張して労働基準監督署の判断を争いました。協力医からは「両肺背側に非石灰化胸膜プラークを認める」との意見が得られ、また、肺がん手術をした病院の「プラークあり」の術中所見及び画像写真も得られたため、その旨の医師の意見書を付して、原処分を取消すよう求めました。
【決定の内容】
2022年8月22日、審査官は、労働基準監督署の判断を覆す決定をしました。弁護団が収集した協力医の意見書等を改めて検討した結果、胸膜プラークありとの鑑定意見を得たとしてXさんの肺がんは業務上の事由による疾病だと判断しました。
この決定後すぐに、労働基準監督署から弁護団に「今回の決定に従って、直ちに休業状況について調査し、適切な対応を取る」と連絡がありました。
【本件のポイント】
本件は、まさに弁護団と協力医の連携プレーで勝ち取った決定でした。Xさんは休業補償給付及び療養補償給付を受けることができ、現在は、国に対する給付金請求及び建材メーカーに対する訴訟を準備・検討中です。
(執筆者 弁護士 吉村友香)