実績(解決した事例)

船舶の保温作業に従事していた方が肺がんで死亡し、安全配慮義務違反に基づく勤務先と元請会社の責任が認められた事案

1 事案の概要

 Xさんは、1951年から1991年まで約40年間、O造船所の下請会社であるP工業に勤務。船舶の機関部や配管、タンク等に保温材を取り付ける作業やその監督などに従事し、アスベストにばく露しました。Xさんは、1991年4月に定年退職後、1993年4月に肺がんと診断され、わずか1カ月後の同年5月に62歳の若さで亡くなりました。

 Xさんが亡くなった当時は、肺がんの原因がアスベストであることが分からず、妻Yさんは、2006年6月になってようやく労災時効救済(石綿被害救済法の特別遺族年金)の認定を受けました。

 Yさんは、2013年、勤務先(P工業)と元請会社(O造船所)を被告として、神戸地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起。

 裁判では、使用者であるP工業の責任と共に、元請会社であるO造船所の責任が認められるかどうかに加え、消滅時効が大きな争点となりました。Yさんが訴訟提起した時点で、Xさんが亡くなってから20年近くが経過していたためです。

 弁護団では、死亡当時の主治医を探し出し、当時、主治医ですら肺がんの原因がアスベストであることに気付かなかったことを立証。裁判所は、死亡時(1993年5月)ではなく、労災時効救済の認定時(2006年6月)が安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の消滅時効の起算点であるとして、被害者を救済しました。

2 判決(神戸地方裁判所平成28年3月16日判例秘書L0715136)の内容

 2016年3月16日、神戸地方裁判所は、Xさんの勤務先であるP工業と元請け会社であるO造船所について、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を認める原告勝訴の判決を言い渡しました。

 判決では、Xさんの死亡慰謝料だけでなく、Yさんにつき原告固有の慰謝料も認められました。

 

3 本件のポイント

 XさんはO造船所の下請企業であるP工業の労働者として、船舶の保温作業に従事していた方であり、勤務先だけでなく、大企業である元請会社O造船所の責任も認められました。

 また、当時の主治医の証言により、Xさんの死亡当時、アスベストが原因であることを具体的に認識することが困難であったことを認めさせ、石綿被害救済法の特別遺族年金の支給決定があった時点を消滅時効の起算点として被害者を救済しました。

 

執筆担当:弁護士 伊藤明子

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