実績(解決した事例)

遺族によるアスベスト労災記録開示訴訟で国に勝訴(全国初)・運用改善をさせた事案

【事案の概要】
(1)労災記録の重要性
 労働者が業務上災害を受けた場合、労基署が調査した事実等が記載された労災記録は、不支給決定を受けた場合に争ったり、企業の安全配慮義務違反による損害賠償請求等を検討する際、 極めて有用な情報となります。
 私たち弁護士は、労働者側で労災に関連する相談を受けた場合、まず労働局に対して行政の保有する個人情報開示請求を行い、これを取得するところからはじめます。特に、アスベスト関連疾患による労災の場合、どこでどのようにアスベストにばく露したかなどの情報が、被災者本人や遺族では特定しきれない場合が多く、労基署の調査結果の開示を受けて初めて判明する事実も多いです。

(2)遺族による被災者本人の労災記録開示請求における不合理な取り扱い
 しかし、かつては、被災者本人が労災申請をして支給決定を受け、被災者が死亡した後に、遺族(相続人)が被災者本人の労災記録について個人情報の開示請求をした場合、原則として開示されない取扱いとされていました(ただし、その遺族が本人として遺族補償給付等を受けている場合は除きます。)。これは、行政機関個人情報保護法による「個人情報」が「生存する個人の情報」と規定されているため、死者の情報はあくまで死者個人の情報であり、相続人が相続するわけではない(死者本人が相続人に対しても知られたくない情報があるはずである)という考えに基づいた運用でした。そのため、例えば被災者本人が労災で死亡し、その妻が遺族補償年金を受けていたが、その妻も亡くなり、夫妻の子(相続人)が企業や国への損害賠償請求を検討するために、父である被災者本人の労災記録の開示請求をするといったケースでは、開示そのものが認められてこなかったのです。
 しかしこれでは、被災者本人がなしえなかった損害賠償請求を、遺族が相続人として追及する場合にも、その根拠となるべき労災記録を手にできず、立証に苦しむという不合理が生じます。全国のアスベスト被害者団体・弁護団は、このようなケースについて積極的に事前に開示をするよう国に要請を続けてきましたが、国の態度は変わりませんでした。

(3)遺族によるアスベスト労災記録開示訴訟を提起した経緯
 他方で、工場におけるアスベスト被害については、2014年10月に泉南アスベスト最高裁判決が出され、その後の原告団との和解において国は同一の要件に該当する被害者・遺族について訴訟提起をすれば和解し賠償金を支払う方針を決定しました。そして、2017年10月からは、国自身が把握する労災認定・じん肺管理区分決定を受けた被災者・遺族に対し訴訟提起を促す通知(個別通知)を出すこととなりました。もっとも、同通知は、必ずしも和解の要件に合致していることを前提にしているわけではないため、通知を受けた被災者・遺族は、和解の要件に合致しているかどうかを知るためにまず労災記録の個人情報開示請求をし、開示を受けた労災記録を検討する必要があります。
 ところが、当弁護団にご相談があった2名の方は、国からの通知を遺族として受け取り、相続人として労災記録の開示請求をしたにもかかわらず、遺族であることを理由に被災者本人の個人情報を開示できないとして、兵庫労働局から不開示決定を受けました。
 国の責任で被害者を出しながら、その情報について開示しないということがあってよいはずがないため、当弁護団で取り組むこととし、2018年5月、不開示決定処分の取消訴訟を大阪地裁に提訴しました。

       

 

【判決の内容】(大阪地判令和元年6月5日判タ1470号104頁、判時2431・2432合併号79頁)
 この訴訟の争点は、アスベスト被災者の労災記録に記載された情報が、遺族(相続人)である原告らを本人とする個人情報といえるかどうか、でした。
訴訟の中で、国は、相続した故人の損害賠償請求権に関する情報が、遺族(相続人)を本人とする個人情報にあたる場合があることを認めました。しかし、その個人情報に当たる場合とは、遺族の有する損害賠償請求権が、確定した判決や和解調書等により確実に存在すると認められる場合に限られると主張しました。
 これに対し、2019(令和元)年6月5日の大阪地裁判決(三輪方大裁判長)は、行政機関個人情報保護法の第一次的目的は個人の利益を保護することにあり、本件労災記録を開示することは原告が相続したアスベスト被害に関する損害賠償請求権の存否を直接的に示す個人情報にあたるが、これを開示しても第三者の権利利益を侵害するとは言い難いこと等の理由をあげ、被災者の労災記録の情報は遺族を本人とする個人情報に該当するとして、不開示決定処分を違法として取り消し、開示を命じました。
国は控訴をせず本判決は確定しました。                                       

【判決の意義と国の運用の改善】
 この判決は、遺族の自らの権利として、労災記録の開示請求権があることを認めたものです。このため、遺族による開示請求がなされると、国には開示に向けた期限が設けられることとなりますし、遺族に開示された情報の範囲に不服があれば、遺族自身が審査請求や訴訟で争うことも可能となります。
本判決の確定後、国は、工場型の国賠訴訟の場合には、遺族による労災記録の開示請求については開示するよう運用を改める通達を発出しました。一つの裁判により、国の違法な運用を変えさせることができ、被害救済にも資する、大きな意義のある裁判でした。
 ただし、国が遺族の請求により開示に応じるのは、上記の工場型国賠訴訟の場合に限定しています。建設アスベスト被害やその他のアスベスト被害の場合には、遺族による労災記録開示請求は未だ認められていません。この点について運用を改善させることが今後の課題です。

                       

執筆担当 弁護士谷真介

 

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