実績(解決した事例)

造船の下請会社従業員だった方が中皮腫により死亡し、遺族が親会社との裁判上の和解により賠償を受けられた事案

1 事案の概要

 被害者のAさんは、約40年間、サノヤス・ライド株式会社(旧サノヤス・ヒシノ明昌・以下「Y社」)の専属下請会社(以下、「Z社」)に勤務し、Y社の船舶製造所(本件製造所)などにおいて修繕船の修理作業に従事しました。Aさんは、定年退職後に良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、悪性胸膜中皮腫を次々に発症。

 Aさんは、平成22年6月10日、Y社に対し、損害賠償請求を求めて提訴しましたが、裁判中に亡くなりその妻X1及びその子らX2~4が裁判を引き継ぎました。X1さんらは、平成23年9月17日大阪地裁で勝訴し、Y社は控訴しましたが、平成24年2月13日大阪高裁で和解が成立しました(ただし、和解内容に守秘条項あり)。

2 1審大阪地裁判決の内容

(1)Y社はAさんの被害は予見できなかったなどと争いましたが、裁判所は、「わが国においても、戦前から石綿の危険性は指摘されており、昭和35年にじん肺法が制定された頃までの間には、広く一般的に石綿粉じんが石綿肺などの危険性を有するとの知見が確立していた」、また、「遅くとも同42年頃までには、少なくともわが国の研究者や関係行政庁においては、石綿が発がん性を有し、中皮腫とも強い関連性を有しているとの認識が相当程度深まっていたということができる」と判断し、「遅くともAが就労を開始した昭和42年頃までには、石綿が人の生命、健康に重大な障害を与える危険性があることを十分認識することができ、かつ、認識すべきであったということができる」として、Y社の主張を斥けました。

(2)また、Y社の安全配慮義務について、Y社が管理する本件製造所でAさんが船舶の修繕作業に従事していたこと、Aさんが所属するZ社従業員はY社の定めた安全規則等の遵守が義務付けられていたこと、同製造所ではY社従業員が現場監督を務め、Aさんを含む作業員に対して作業や安全管理等についての指示をしていたことなどから、「下請会社の従業員はY社の作業員と同様に、Y社によって作業等を管理されていたというべきであるから、Y社は亡Aに対し、実質的に使用者に近い支配を及ぼしていたというべきである」とした上で、Y社はAさんに対し、信義則上、安全配慮義務を負っていたと判断しました。

(3)Y社の安全配慮義務違反の内容については、「(ア)粉じん作業と非粉じん作業の隔離を徹底せず、粉じん作業によって生じた粉じんの飛散を十分に防止しなかった点、(イ)防じんマスクを支給せず、又はその着用を徹底せず、防護衣等を支給しなかった点、(ウ)必要な安全教育をしなかった点において、本件製造所の作業員が石綿粉じんを吸引しないようにするための措置を怠っていたというべきであり、その結果、亡Aは本件製造所において石綿粉じんにばく露したものというべきであるから、亡Aに対する安全配慮義務違反に基づく責任を免れない」としました。

 

3 1審大阪地裁判決のポイント

 本件では、具体的な事実関係を踏まえ、親会社の下請会社従業員に対する安全配慮義務違反が認められました。

 提訴した後、Aさんの体調が急速に悪化したことから、証拠保全を申立て、第1回口頭弁論前に所在尋問(自宅での臨床尋問)を実施しました。このため、ご本人の証言から、具体的なY社による支配関係や、安全配慮義務違反を基礎づける具体的な作業状況を立証することができました。

 

(執筆担当:弁護士 奥田愼吾)

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