建築現場で塗装作業に従事し石綿肺に罹患・死亡した労働者の遺族が勤務先の塗装会社を提訴し勝訴判決を勝ち取った事案
1 事案の概要
被害者のAさんは、1951年から1998年までの約47年間、塗装会社の正社員として建築現場で塗装作業に従事しました。Aさんは、建築現場で塗装の前作業である下地調整作業(塗装面を平滑にする作業)や、建物改修(塗り替え)作業の際の旧塗膜の剥離作業等の際にアスベスト粉じんを吸い込みました。
Aさんは退職後に石綿肺を発症し、呼吸苦で苦しみ抜いた末に、2003年に60代の若さで亡くなりました。遺族は自ら労基署に申請し、労災時効救済の認定(特別遺族年金の支給決定)を受けていました。
遺族より当弁護団に相談、依頼がなされ、2013年、大阪地方裁判所に勤務先の塗装会社を被告とし、損害賠償請求訴訟を提起しました。
2 判決の内容 (大阪地裁判決平成27年4月15日 労働経済速報2246号18頁)
大阪地裁は、勤務先の塗装会社の責任(安全配慮義務違反)を認め、約3500万円の損害賠償を命じました。
勤務先会社は、建築塗装作業におけるアスベストばく露の事実を否定し、Aさんが罹患した病気は石綿肺ではない(石綿由来ではない間質性肺炎である)等主張し、全面的に責任を争っていました。
しかし、大阪地裁判決は、1951年から1998年までの約47年間にわたりAさんが建築現場で塗装作業に従事し、その際にアスベストを含むモルタルやボード、塗料等のアスベスト粉じんに曝露した可能性があること、Aさんが罹患していた疾病は胸膜プラークが認められること等により石綿の吸引によって罹患した肺線維症(すなわち石綿肺)であることを認定しました。
そして、労働者を雇用する企業が負う安全配慮義務違反の前提となる予見義務の内容について、生命健康に対する障害の性質や程度、発生頻度まで具体的に認識する必要はないとしました。その上で、旧じん肺法が施行された昭和35年には、勤務先の塗装会社は、石綿に危険性が認められること、また塗装工が石綿粉じんに曝露して生命身体に重大な障害を生じる可能性について認識ないし認識可能性があったとし、安全配慮義務違反の責任を認め、損害賠償を命じました。
3 判決のポイント
本判決は、塗装業のアスベスト被害について雇用主の責任を認めた全国初の判決で、大きく報道されました。安全配慮義務違反を問う前提となる雇用主の予見可能性の対象について具体的な予見までは不要とし、その時期について昭和35年とする等、これまで積み上げてきた判決の内容を踏襲したものといえます。本判決は、建築現場、特に塗装作業という個別の作業においてもこれを認め、防じんマスクの着用の徹底等の粉じん対策を講じる責任を断じたところに意義があります。
被害者のAさんは長年にわたり同じ会社に勤めていたため、雇用主の責任を問うことができました。しかし、建築作業従事者は、複数の雇用主の下で短期間ずつ勤務したり、一人親方や小零細事業主であったり、あるいは雇用主自体が一人親方や小零細事業主であるため、実際には雇用主の責任を問えるケースは多くありません。
当弁護団では、建設アスベスト訴訟で、こうした被害者の救済をも求め建材メーカーと国の責任を追及し、賠償を勝ち取っています。
(執筆担当:弁護士 谷真介)