スーパーの青果売り場の元従業員に対する労災不支給決定の取消訴訟を提起しました

2024.06.24

大手スーパーマーケットの従業員として、青果売り場で管理販売業務に従事していたＡさんが、退職後に、悪性胸膜中皮腫と診断され、６１歳の若さで死亡しました。

悪性胸膜中皮腫は、石綿粉じんにばく露することで発症する病気です。

Ａさんは、石綿を扱う工場等の近くに居住したことはなく、診断当初、どこでアスベストを吸い込んだのか、全く身に覚えがありませんでした。

しかし、店舗等の建物にはアスベストが使用されている場合があることから、Ａさんの妻は、アスベストにばく露したとすれば、スーパーでの勤務中以外に考えられないとして、労災申請をしました。

Ａさんの妻は、当初、バックヤード等に吹き付けられた吹付材からばく露したのではないかと考えており、労災手続でも、Ａさんが勤務した各店舗に吹付材があったかどうか等の調査がなされました。

その結果、Ａさんが石綿にばく露するような環境にあったことを確認できないとして、労災申請を認めない決定がされました。

その後、Ａさんの妻は、Ａさんの元同僚から、Ａさんの仕事内容について話を聞く中で、Ａさんが、青果売り場の天井に、特価商品や安売りセール等について記載した販促ポップを吊り下げる作業を日常的に行っており、「ヒートン」と呼ばれる販促ポップの吊り具を天井材にねじ込んだり取り外したりする際に、天井材から粉じんが落ちてきていたことを知りました。

そこで、Ａさんの妻は、労災不支給決定について不服申立を行い、天井材からばく露した可能性があることを主張しました。

しかし、十分な調査がなされないまま、Ａさんが配属された各店舗の青果売り場の天井等に石綿含有建材が使用されていたという客観的資料は見当たらない等として、結局、不服申立も認められませんでした。

その後、Ａさんの妻から当弁護団に依頼がありました。

当弁護団では、まずは、Ａさんが働いていた店舗のうち現存する店舗の天井材を確認する必要があると考え、当弁護団が代理人を務めた建設アスベスト訴訟の元原告（内装工）の協力を得て、Ａさんが働いていた店舗の青果売り場の天井材を確認しました。

そうしたところ、Ａさんが約６年間働いていた店舗の青果売り場の天井にロックウール吸音天井板が使われていることが分かりました。築年数から考えると、石綿含有の可能性が十分にある天井材です。

また、店舗解体時の資料から、Ａさんが勤めていたスーパーでは、他の店舗でも、天井材にアスベスト含有建材が使用されていたことが判明しました。

そのため、Ａさんが働いていた複数の店舗で、石綿含有の天井材が使われていた可能性があると判断し、今回の取消訴訟を提起するに至りました。

今回の訴訟の最大の争点は、Ａさんが勤めていた店舗の天井材にアスベスト含有建材が使用されていたかどうかです。

今後は、裁判上の手続を使って、Ａさんが勤めていた店舗の天井材を明らかにしていきます。

本件のように、一見、アスベストとは関係がないと思われる職種の方でも、アスベストを原因とする病気を発症することがあります。

どこでアスベストにばく露したのか、全く身に覚えのない方もおられます。

それほど、アスベストは身近にある恐ろしい存在です。