【造船アスベスト国賠訴訟】弁護士意見陳述その1~造船作業従事者の救済を認めない不当性について~ - 大阪アスベスト弁護団

【造船アスベスト国賠訴訟】弁護士意見陳述その1~造船作業従事者の救済を認めない不当性について~

2023.05.31

2023年5月23日、造船アスベスト国賠訴訟の第1回期日が行われました。

第1回期日では、江藤弁護士と鎌田弁護士から意見陳述が行われました。

江藤弁護士からは、造船作業が建設作業と共通、類似する作業実態を有しているため、造船作業によって石綿関連疾患に罹患された方について、建設アスベスト給付金の救済対象者と認めない不当性を訴えました。

以下では、江藤弁護士が当日陳述した意見陳述書をご紹介します。

 

 

 

意見陳述書

 

2023(令和5)年5月23日

 

大阪地方裁判所第23民事部合議2ウ係 御中

 

原告ら訴訟代理人弁護士  江 藤  深

                  

 

1 はじめに

 国は現在、造船作業従事者を、建設作業従事者には含まれないという形式的な理由から、建設アスベスト給付金法の救済対象者と認めていません。

 しかし、このような国の対応は、相代理人が後に述べるように、同法の趣旨に反し、制定の契機となった建設アスベスト最高裁判決の理解を誤ったものです。私からは前提として、造船作業と建設作業が共通、類似するという具体的な事実を述べます。

 

2 船舶と建築物が共通ないし類似の構造を有していること

 造船について書かれたある文献において、大型の船舶は、水に浮かぶビルにたとえられています。多くの船舶では、建築物の床に当たるデッキより上に船員の寝室、食堂、厨房を含む居住区があり、デッキより下の船体内部に貨物を収容するための船倉、そしてエンジンの置かれた機関室が位置するという構造になっています。また各エリアには電気、配管、空調等の設備が備えられます。

 船舶と建築物の共通性、類似性は、法の規定ぶりにも表れています。例えば船舶安全法2条1項では、船舶に排水設備、居住設備、衛生設備、電気設備を備えるよう定めています。一方、建築基準法2条は「建築物」の定義の中に、建築設備、すなわち電気、給水、排水、汚物処理等の設備を含んでおり、居室もまたその構成要素の一つとします。

 船舶は実際上も、法令の規定上も、構造設備の多くの面で、建築物との共通する点を有しています。しかも、造船所においては当然ながら、船舶は係留された状態で作業を施されます。造船作業従事者の視点から見たとき「動く」「動かない」という両者の違いは、全く意味を持ちません。

 

3 建築物同様、船舶でも大量の石綿製品が使われたこと

 建築物で石綿含有建材が壁、床、天井、鉄骨をはじめ、あらゆる場所に用いられたことは、先の建設アスベスト訴訟でも認定された通りです。同じく複数のエリアに分かれ、内部で人が絶えず移動し、生活する船舶は、水上にある分、防火、防音、防水性の確保がより強く求められます。戦後、海上における安全を目的とする国際条約を日本が批准し、それに伴い国内法令の整備がされるという経緯の中で、防火性という観点から、船舶の設備についての規制が強まっていきました。

 そのような中で、船舶でも、建築物同様、吹付材、保温材、断熱材、天井材、壁材、床材として、火、熱、水に強いとされた石綿を含む製品が多く用いられることとなったのです。

 

4 造船作業の具体的工程、作業者のばく露態様が建築作業と同じであること

    造船作業には大きく、鋼材を組み立てて船体を形成する船殻作業、船体に船舶としての必要な設備、部品を取り付ける艤装作業、そして完成した船舶の修繕作業があります。

 例えば、艤装作業の中には、居住設備や配管、操舵機等を取り付ける「船体艤装」という仕事があります。これは建設でいうところの、大工・内装作業、あるいは配管作業に当たります。また電気配線、電気機器等を取り付ける「電気艤装」という仕事もあります。これは建設で電工と呼ばれる人々の作業と何ら変わりません。

 造船作業における石綿粉じんの発散、そして作業従事者がこれにばく露するという実態もまた、建設作業と共通します。

 吹付材についていえば、吹付機のホースの先端のノズルから放出される際に、石綿繊維を含む粉じんが空気中に飛散することになります。保温材、断熱材、壁材、天井材、床材といった石綿含有製品であれば、取付けに当たり、電動工具や手動ののこぎりで適当な大きさに切断するため、この際に石綿粉じんが飛び散ります。配線作業をするに当たり、鉄骨等に既に吹き付けられた吹付材を削り取ったり、設置済みの壁材、天井材に穴を空けたりする際にも、やはり粉じんが発生しました。船舶の修繕作業において、石綿含有製品の取外しや破砕の際に石綿粉じんにばく露することも、建設における解体・改修作業の場合と同様です。

 自らが担当する作業により飛散した石綿粉じんにばく露するという「直接ばく露」、同じ造船工場や船内で、同僚らの作業から飛んでくる石綿粉じんにばく露するという「間接ばく露」という態様があることも、建設作業と同じです。

 

5 船舶の閉鎖性、密閉性

 船舶の場合、船体の形が順次形成されるにつれ、閉鎖空間が多くなり、デッキの完成とともに、船体内部は全面的な閉鎖区画となります。とりわけ、船殻作業を経て艤装作業に至った段階では、建設アスベスト訴訟最高裁判決や、建設アスベスト給付金法でいうところの「屋内作業場」以上に、閉鎖性、密閉性の高い空間が生まれます。また、船体内部の修繕作業が「屋内」作業であることもまた当然です。

 造船作業従事者はこのような閉鎖性、密閉性の高い作業環境において、石綿の危険性を知らされず、防塵マスク等のばく露対策もされないままに作業することを余儀なくされました。

 

6 小括

 このように、造船作業と建設作業を比較すると、船舶・建築物の構造・設備、石綿製品の使用状況、建造・建設の工程・作業内容、作業者の置かれた作業環境、石綿粉じんへのばく露態様等は、いずれも違いがありません。

 これらの実態を踏まえたとき、造船作業従事者を救済しない理由は、どこにも見当たりません(了)

 

 

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