日本石綿・中皮腫学会の声明文
2022.05.03日本石綿・中皮腫学会理事会は、2022年4月20日付け声明文「悪性中皮腫に対する既存の治療薬の適応拡大と、さらなる診断・治療法の開発研究に対する公的支援を要望いたします」を発表しました。
アスベスト被害者の治療・医療体制の確保は、私たち全国弁護団にとっても重要な課題です。
○日本石綿・中皮腫学会理事会:声明文「悪性中皮腫に対する既存の治療薬の適応拡大と、さらなる診断・治療法の開発研究に対する公的支援を要望いたします」(pdf)(外部リンク)
以下、全文をご紹介します。
声明文
「悪性中皮腫に対する既存の治療薬の適応拡大と、さらなる診断・治療法の開発研究に対する公的支援を要望いたします」
私ども日本石綿・中皮腫学会は、過去 25 年以上にわたり悪性中皮腫患者さんの診療や研究開発に取り組んできた 2 つの学術団体が統合し、令和元年に発足した特定非営利活動法人(NPO)です。所属する会員は、悪性中皮腫に対する化学療法、外科手術、放射線療法、画像・病理診断に関して経験豊富な医師が中心です。会員は長年にわたって多くの悪性中皮腫患者さんの診療に携わるとともに、悪性中皮腫の原因遺伝子の解明から、より正確な診断法の開発、そして新たな治療法の開発に取り組んで参りました。
現在、日本では年間、1500 名以上の悪性中皮腫の患者さんが発症されています。悪性中皮腫は極めて難治性で、この 10 年ほどで治療成績が大幅に改善したとはいえ、多くの患者さんの予後は未だ厳しい現状があります。その原因の 1 つは、肺がんや乳がんなどの頻度の高い腫瘍に比べ、使用できる薬剤や治療法が極めて少ないことです。つい数年前まで、進行した悪性中皮腫患者さんに対する化学療法はシスプラチンとペメトレキセドの併用療法のみでした。他のがんでは著明な効果を示した分子標的薬も、国内外で精力的に研究が行われたにもかかわらず、臨床試験ではほとんど効果が認められませんでした。
最近の免疫チェックポイント阻害薬の開発は目覚ましいものがあります。私どもの会員の医師らも参加した、ニボルマブ単独、そしてニボルマブとイピリムマブの併用療法の臨床試験において、免疫チェックポイント阻害薬が悪性中皮腫患者さんにも著明な効果が示すことを明らかにして参りました。その結果、これらの薬剤が一定の条件のもと、悪性中皮腫患者さんに対する治療薬として保険適応が認められました。このことは、悪性中皮腫患者さんやその家族に対して大きな希望を与えるものでした。
しかし、残念なことに、これらの薬剤を保険適応下で投与できる悪性中皮腫患者さんは限られています。例えば、既に他の抗がん剤の治療を受けた悪性中皮腫患者さんにニボルマブ、イピリムマブの併用療法を行うことができません。手術との併用も認められていません。そのため、これらの併用療法が受けられない患者さんが現在、多数おられます。また、他のがんでは認められていて中皮腫でも効果が期待されるさまざまな治療(抗がん剤の組み合わせ、悪液質改善剤、ラジオ波治療など)も、悪性中皮腫には保険適応がありません。
通常、薬剤の保険適応拡大を目指すには大規模な比較臨床試験を行ってエビデンスを得ることが求められます。しかし、大規模臨床試験には膨大な資金と時間が必要であるうえ、本来受けられるはずの治療による利益を被験者が受けられないなどのデメリットもあります。悪性中皮腫は稀少がんであり、十分な規模の臨床試験を行うことは非常に難しいことから、その実施は困難です。このままでは、せっかく治療方法が存在するのにその恩恵を受けることなくお亡くなりになる患者さんが増えるばかりです。私どもは、現在、悪性中皮腫と闘っておられる患者さんに対して、有効性が期待される薬剤を、安全性を十分に配慮しつつできるだけ多くの方に投与させて頂きたいと考えています。
そこで、私どもは以下の 3 点を要望します。
- 現在、悪性中皮腫に認可されている治療薬の保険適応上の制約の解除を要望します。
- 悪性中皮腫への適応拡大を目指す医師主導臨床試験について、公的な基金等の活用を要望します。
- 悪性中皮腫や石綿関連疾患の発症や病態解明および新しい診断法や治療法の開発研究のために公的な基金等の活用を要望します。
私ども日本石綿・中皮腫学会を代表して、是非、悪性中皮腫患者さんに対する治療法の適応拡大を求めたいと考え、ここに広く声明文を公表するものです。
令和 4 年 4 月 20 日
特定非営利活動法人 日本石綿・中皮腫学会
理事長 関戸好孝
理事一同
【事務局】〒663-8501 兵庫県西宮市武庫川町 1-1
兵庫医科大学 8 号館 4 階
TEL:0798-45-6088 / FAX:0798-45-6783
http://jamig.kenkyuukai.jp/special/?id=30225
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