建設アスベスト訴訟-国、建材企業に勝訴!そして給付金制度創設へ-
2021.06.25(本稿は、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の会報に掲載されています。)
建設アスベスト訴訟-国、建材企業に勝訴!そして給付金制度創設へ-
大阪アスベスト弁護団
弁護士 大久保貴則
1 最高裁判決
2021年5月17日、ついに建設アスベスト訴訟の最高裁判決が言渡されました。判決後多数の報道がなされているため、すでに内容をご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、改めて、判決内容について簡潔にご報告いたします。
(1)国の責任
最高裁は、すでに、東京1陣訴訟、京都1陣訴訟及び大阪1陣訴訟において、国の上告受理申立てを不受理としていたので、判決言渡し前の時点で、労働者だけでなく一人親方及び中小事業主に対する国の責任が認められることが確定していましたが、国の責任期間や違法事由などについては明確にされていませんでした。
そこで、最高裁は、判決においてこの点を明らかにし、国は、1975(昭和50)年10月1日から2004(平成16)年9月30日までの間、事業主に対し、屋内作業者が石綿粉じん作業に従事するに際し防じんマスクを着用させる義務を罰則をもって課すとともに、これを実効あらしめるため、建材への適切な警告表示(現場掲示を含む。)を義務付けるべきであったにもかかわらず、これを怠ったことは著しく不合理であり、国賠法1条1項の適用上違法であると判示しました。
これにより、上記の期間内に建設現場で屋内作業に従事し、それによって石綿関連疾患に罹患した方については国の責任が認められることが確定しました。
(2)建材企業の責任
建材企業の責任についても、最高裁は、京都1陣訴訟及び大阪1陣訴訟において、原審で責任が認められていた建材企業の上告受理申立てを不受理としていたので、主要原因建材について高いシェアを有していた建材企業の共同不法行為責任が認められることは確定していました。
その上で、最高裁は、原告らが用いたシェアに基づく確率計算を行う立証方法を肯定し、民法719条1項後段類推適用を認めることにより、建材企業の連帯責任を認めることなどを判示しました。
(3)最高裁判決の評価
以上のように、一人親方等に対する国の責任が認められたことや、建材企業の共同不法行為責任が認められたことは画期的であり、東京1陣訴訟提訴から13年もの月日を経て、歴史的な勝訴判決を勝ち取ることができました。
もっとも、国と建材企業のいずれの責任においても、最高裁が屋外作業者に対する責任を否定したことは残念でなりません。大阪訴訟の最高裁弁論において、屋外作業者に対しても建材企業の責任が認められるべきであるとの弁論を担当した私としては、その弁論作成にあたって様々な証拠等を見直す中で、「屋外作業の危険性を認識し得た資料がこれだけあり、この状況で屋内作業者と同様に石綿関連疾患に罹患した方々が救済されないことなどあり得ない」と確信していたため、判決結果は極めて不当だと考えています。
私事にはなりますが、私が弁護団に加入したのは最高裁に係属した後であり、今回の最高裁判決で勝ち取った内容は弁護団の諸先輩方及び原告のみなさんの力によるもので、私は貢献できておりません。そのような状況で、弁護団加入から判決に至るまでの間、解体作業者に対する建材企業の責任、及び屋外作業者に対する建材企業の責任が認められるよう尽力してきましたが、いずれについても最高裁で認められることはありませんでした。そのため、私個人としては、今回の最高裁判決は悔しい結果であるとともに、同じように建設現場の作業の中で被害を被った方々について、不当な線引きがされ、救済されなかったことを非常に残念に思います。
歴史的勝利である最高裁判決は出ましたが、一部の作業者が救済されなかった無念を晴らすため、今後救済の途が開かれるよう全力を尽くしたいと思います。
2 基本合意書及び給付金制度
また、2020年12月14日の東京1陣訴訟についての最高裁決定(国の上告受理申立てを不受理とする決定)によって国の責任が確定した後、最高裁判決までの間に、原告団・弁護団・全国連絡会は、国に対して、すでに提訴している2陣3陣訴訟の原告や、未だ提訴していない被害者に対する補償を速やかに行うよう様々な働きかけをしていました。
そして、最高裁判決の翌日である2021年5月18日、菅首相が原告らに謝罪するとともに、国との間で基本合意書を締結しました。これにより、国は、被害者に謝罪し、係属中の訴訟を和解で解決するとともに、未提訴の被害者については、簡易迅速な救済を目指した行政認定による制度によって補償を図るとしました。
これらを受けて、2021年6月9日、国が未提訴の被害者に給付金を支給するための法案が、参議院本会議で可決、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立しました。
この給付金制度においては、①昭和50年10月1日(※吹付作業の場合は昭和47年10月1日)から平成16年9月30日までの間に、屋内での建築作業現場で働いていた方(一人親方・中小事業主等を含む)で、②そのために、石綿肺、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水など石綿関連疾患を発症し、労災認定、じん肺管理区分決定(管理2~4)または石綿救済法認定を受けた方 、あるいはそのご遺族であること、という①②の要件を満たす方に対して、罹患した病気等に応じて、550~1300万円の給付金が支払われます。
国は、すでに約1万人の対象者がいると推計しており、建設アスベスト被害者は、今後毎年600人程度、30年後までに3万人を超えると見込んでいます。13年にわたる建設アスベスト訴訟の成果として、多くの未提訴・将来の被害者が救済されることは画期的です。
給付金の請求は各地の労基署に申請することになっており、2022年春頃までに制度の運用が始まる見込みです。
3 今後について
以上のように、建設アスベスト問題は、歴史的勝利を勝ち取った最高裁判決、さらには基本合意書及び給付金制度により、大きく前進し、多数の被害者の方が救済されることとなりました。
当弁護団において、最高裁判決の翌日から約1週間無料電話相談を実施したところ、300件を超える相談が寄せられ、その後も、日々多数の相談が寄せられています。救済の途が開かれたことの影響を実感するとともに、まだまだ多数の被害者がいることも痛感しています。
また、ご相談の中には、屋根工でも屋内での作業があったり、建材を建築現場に搬入する作業に従事していた方な、給付金制度の対象に該当するのかしないのか、一見して明らかではないケースもあります。当弁護団は、泉南型訴訟において、困難事案に立ち向かい、救済の範囲を大きく拡充させてきました。建設アスベスト訴訟においても、決して簡単に諦めず、1人でも多くの被害者が適切な救済を受けられるよう尽力していきます。
さらに、今回の給付金制度は国による本来の賠償金の一部を支払うというものであり、建材企業が支払うべき賠償金は含まれていません。しかし、そもそも石綿建材を製造販売し利益を上げ続けた建材企業が、被害者救済の制度に参加せず、賠償金を支払わないのは許されません。したがって、今後も、建材企業が関与し、かつ屋外作業者等も含めた全ての建設アスベスト被害者が救済される補償基金制度の創設に向けて活動していきます。
私たち弁護団は、これからも皆様と一緒に全てのアスベスト被害者が救済されるよう全力を尽くしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
以上
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