建設アスベスト訴訟 最高裁判決の歴史的到達点 ―公害訴訟・じん肺訴訟の到達点を踏まえて―
2021.07.01(本稿は、自由法曹団の団通信第1745号に掲載されたものです。)
建設アスベスト訴訟 最高裁判決の歴史的到達点
―公害訴訟・じん肺訴訟の到達点を踏まえて―
弁護士 村 松 昭 夫
1 最高裁判決と画期的な成果
去る5月17日、最高裁(第一小法廷)は、東京1陣、神奈川1陣、京都1陣、大阪1陣の4つの建設アスベスト訴訟において、国の責任では一人親方等に対する関係でもその責任を認め、建材企業の責任では建材企業らの共同不法行為責任を認める判決を出した。不当な部分があるものの、大枠では建設アスベスト被害者の救済を大きく前進させるものであった。
また、最高裁判決を受けて、翌日には、菅首相が原告団代表に謝罪し、国との間で、既提訴の原告らを泉南型国賠と同水準で和解解決すること、及び、未提訴の被害者の関係でも、簡易迅速な救済を図るために、行政認定によって国が最大1300万円の賠償金を支払う制度を創設することなどを内容とする基本合意が締結され、6月9日には同制度の立法化も図られた。建材企業が既提訴の和解も制度への資金拠出も拒否したことから全面解決には至らなかったが、画期的な成果であることは間違いない。
以下においては、今回の最高裁判決が、国責任の点でも建材企業責任の点でも、長年の公害訴訟やじん肺訴訟の到達点を踏まえた歴史的到達点を築くものであったという点に絞って紹介したい。
2 国の規制権限不行使の責任
薬害訴訟を除いて、生命・健康に対する被害救済を求める国賠訴訟において、国の規制権限不行使の責任が認められるようになったのはそんなに古いことではない。その嚆矢は、2004年6月の筑豊じん肺訴訟最高裁判決である。同判決は、国の規制権限の行使は、その健康を確保することを主要な目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく、適時にかつ適切に行使されるべきとする判断基準を示して、国の規制権限不行使の責任を認めた。アスベスト訴訟においては、2014年10月の泉南国賠最高裁判決がこの判断基準を踏襲し、石綿工場内での被害防止に関して国の規制権限不行使の責任を認めた。そして、本件では、防じんマスクの使用義務付けや警告表示(建設現場での警告掲示も含め)義務付けに関する国の規制権限不行使の責任を認めた。同時に、警告表示義務が物の危険性に着目した規制であり、その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られない、また、警告掲示義務が場所の危険性に着目した規制であり、その場所で作業する者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するとして、安衛法の趣旨、目的に着目して一人親方等に対しても国の規制権限不行使の責任を認めた。こうした法律の文言に拘泥することなく法の趣旨、目的を重視し被害救済を拡大する判断は、2004年10月の水俣病関西訴訟最高裁判決が、熊本県漁業調整規則の趣旨、目的から熊本県の規制権限不行使の責任を認めた判断を踏まえたものである。今回の最高裁判決は、国の責任において、じん肺訴訟や公害訴訟の到達点をさらに一歩進め、歴史的到達点を築いたものと言える。
3 建材企業の共同不法行為責任
企業の共同不法行為責任、とりわけ、民法719条1項後段の類推適用で被告企業らの集団的寄与度責任を認めるという方向は、大阪・西淀川公害訴訟判決など都市型複合大気汚染事案で下級審判決が積み上げられてきていたが、これら訴訟は地裁判決後に企業側と和解解決が図られたことから、この点に関して最高裁が判断することはなかった。今回の最高裁は、こうした長年の下級審判断を重く受け止め、719条1項後段の趣旨を踏まえてその類推適用によって建材企業らの集団的寄与度責任を認めたものである。この点でも、今回の最高裁判決は、公害訴訟の到達点を踏まえた歴史的到達点を築いたものと言える。
建設アスベスト訴訟の評価においては、以上のような視点からの検討も重要である。
以上
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