建設アスベスト給付金制度の運用状況と問題点 - 大阪アスベスト弁護団

建設アスベスト給付金制度の運用状況と問題点

2024.04.28

以下の記載は、NPO法人ひょうご労働安全衛生センター『労働安全衛生』2024年4月号第244号「建設アスベスト給付金制度の運用状況と問題点」より転載したものです。

 

■建設アスベスト給付金制度

2021年5月17日の建設アスベスト訴訟の最高裁判決を受け、同年6月9日、建設アスベスト給付金法が成立してからまもなく3年になります。

建設アスベスト給付金制度は、未提訴被害者について、国との関係で、司法判断を反映させた高水準の賠償を行政手続により簡易・迅速に図るもので、建設アスベスト訴訟の大きな成果です。

厚労省は、2022年1月19日から建設アスベスト給付金制度を完全施行。2024年3月末までの審査件数は6864件、うち6653件(97%)が認定されました。

当初は情報提供サービスの申請から認定まで1年近くかかっていましたが、最近では2~3カ月で認定されています。新築工事や改修・解体工事だけでなく、工場内の配管・保温メンテナンス作業などを含め、多くの労災認定者が簡易迅速に救済されており、本来の法制度の趣旨に沿った運用がようやく始まったと言えそうです。

また、給付金法における請求権者が限定されているため、法定相続人である甥、姪らが国賠訴訟を提起せざるを得なくなったケースについては、2024年3月11日神戸地裁で和解が成立しました(詳細は本誌2023年9月号ご参照)。

もっとも、労災認定を受けていない一人親方等、情報提供サービスを利用できない通常請求の事案では、審査に長期間を要しているのが実態です。施行開始から2年余りの間に不認定も90件に上っており、その多くが通常請求事案と予想されます。繰り返しの追完指示による請求断念も懸念されるため、今年2月に当弁護団や安全センターの皆さんらと49件のケース検討会を行いました。以下では私見も交えながら、運用上の問題点をご紹介します。

 

■労災(不認定)記録があるのに・・・

労災申請したものの労働者性が認められず労災不認定となり、石綿救済法認定のみとなったケースでは、労災段階で作業内容やばく露状況が調査されていますので、厚労省が自ら保有する労災記録を検討すれば速やかに給付金認定できるはずです。にもかかわらず、請求者側から労災記録の抜粋を提出して初めて認定されたケースが複数ありました。労働者性が認められず労災不認定となった被害者については、情報提供サービスと同じように労災記録を活用すべきです。

 

■情サにおける一人親方等の期間の不考慮

労災認定者でも、情報提供サービスで一人親方や個人事業主期間が考慮されず「非該当」とされたため、やむなく通常請求したケースがありました。労災認定上のばく露期間が給付金対象期間の10年に満たないため期間減額された肺がんのケースも複数ありました。中には労災申請時と全く同じ資料を追加提出して満期認定されたケースもあり、情報提供サービスの判断に疑問が残ります。

現在は通達(令和5(2023)年2月15日付労災発0215第1号)により、一人親方等の期間の作業内容等についても、労災調査において把握した場合は調査票に記載することとされ、これが情報提供サービスの際の重要な情報となるとされています。また、以前は、調査結果復命書のみを根拠に情報提供サービスの判断をしていたようですが、現在は聴取書など添付資料も検討することとされています。今後、運用改善が徹底されているか注視する必要があります。

なお、一般論として、労災段階でどの期間まで遡って調査すべきか、例えば給付金の対象期間外である2005年以降のばく露のみで労災認定できるケースで、(給付金認定を見据えて)それ以前のばく露歴も調査すべしと言えるのかは、迅速な労災認定との兼ね合いで悩ましい問題です。

 

■不当な過剰立証の要求

ねんきん定期便を提出しているのに被保険者記録照会回答票の追加提出を求められたり、建設組合の特別加入歴証明書や工事契約書を提出しても、石綿ばく露作業に従事した証明にはならないとか、被害者本人が作業を行った証明にはならないなどとして、追加資料の提出を求められたケースなど、明らかに不当な追完指示もありました。マニュアル通りの対応がある程度やむを得ないことは理解できますが、給付金担当者のスキルアップや運用状況の検証が必要です。

 

■事業主等への照会と回答

多くのケースでは、就業歴等の証明書を作成した事業主や同僚、施主等に、厚労省から改めて照会書を送付しているようです。

この場合、石綿使用なしや不明との回答があっても適切に認定されるか注意が必要です。そもそも建設作業者自身に石綿建材使用の認識がないケースも多く、事業主の場合は責任追及を懸念する可能性も考えられます。石綿建材の製造販売期間は客観的に明らかですから、その期間の建設作業従事歴を確認すれば良く、石綿使用なしや不明との回答は重視すべきではありません。労災段階においても同じことが言えますが、少なくとも給付金における照会書の質問項目について再検討が必要ではないでしょうか。

 

■水道配管工の情サ非該当

道路(地面)下の石綿セメント管の補修・取替え作業は、深さ1~2mの狭い穴の中での作業で、屋内と同じように粉じんが滞留します。そのため、石綿セメント管を取り扱った水道配管工についても国の責任が認められ、大阪2陣訴訟では2名が国と和解しています。

ところが、屋外作業であるとして、情報提供サービスで「非該当」とされたケースがありました。同種事例の裁判例があることについては、2023年4月に建設アスベスト訴訟全国連絡会から厚労省に申入れしましたが、その後の「非該当」ケースも判明しています。

 

■客観資料のないケース

客観資料がなく、被害者本人ないしは親族のみが同僚の通常請求事案が複数ありましたが、いずれも認定に至っておらず、不認定となったケースもありました。

給付金の審査方針は、「具体的な判断に当たっては、特に就労歴や喫煙の習慣等について、その立証が容易でない場合も想定されるので、同種事例の裁判例も踏まえて、関係者の証言や申述等の内容が、当時の社会状況や被災者が置かれていた状況、収集した資料等から考えて、明らかに不合理でない場合には柔軟に事実を認定する」としています。本人や親族の陳述書でも信用性が高いケースがあり、審査方針に従った運用が求められます。

また、親族以外の第三者の協力が得られたケースでも、その方自身の社会保険記録など客観資料が求められることがありますが、現実にはそこまで協力が得られるとは限りません。この点も柔軟な運用が必要です。

今後も安全センターの皆さんらと立証方法の工夫・情報共有を図り、厚労省との協議・改善申入れも検討したいと考えています。

 

大阪アスベスト弁護団 弁護士 伊藤明子

 

 

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