【造船アスベスト国賠訴訟】弁護士意見陳述その2~造船型国賠訴訟の意義と目的、裁判所に対する要望~
2023.05.312023年5月23日、造船アスベスト国賠訴訟の第1回期日が行われました。
第1回期日では、江藤弁護士と鎌田弁護士から意見陳述が行われました。
鎌田弁護士からは、①本件訴訟の意義や目的が、造船作業によるアスベスト被害についても、建設作業と同様に国に責任があることを明確にし、早期の被害救済を求めることにあること、②裁判所に対して、アスベスト被害の深刻さに真摯に向き合い、早期解決による救済を求めることなどの要望を述べました。
以下では、鎌田弁護士が当日陳述した意見陳述書をご紹介します。
意見陳述書
2023(令和5)年5月23日
大阪地方裁判所第19民事部合議1係 御中
原告ら訴訟代理人 弁護士 鎌 田 幸 夫
1 本件訴訟の審理の始めにあたって、本件訴訟の意義と目的、裁判所に対する要望を述べます。
2 本件訴訟の意義と目的
本件訴訟は、造船作業に従事し、石綿粉じんにばく露したことにより、重篤な石綿関連疾患に罹患した被害者が、国の責任を問う初めての訴訟です。
何故、今回、造船アスベスト国賠訴訟を提起したのか、その意義と目的を述べます。
アスベストは、保温、保冷、絶縁、防火などの目的で戦前、戦後を通じて様々な産業部門で大量に使用され、被害が発生、拡大しました。
石綿紡織工場で石綿作業に従事し石綿関連疾患を発症した被害者らが、国の責任を追及した大阪泉南アスベスト国賠訴訟で、平成26年10月9日、最高裁で国の責任を認める判決が言い渡されました。そして、国は、「泉南アスベスト最高裁判決で国の責任が認められた者と同様の状況にあった石綿工場の元労働者に、訴訟上の和解を申し入れる」として救済を図ってきました。留意すべきは、この司法上の救済制度では石綿紡織工場など石綿製品の製造、加工に限らず、石綿製品を利用する工程で石綿粉じんが飛散している作業場で、粉じん発散源が一定しており、局所排気装置設置による対策が有効適切であれば、業種、業態を問わず救済の対象が広がっているということです。
次に、労働現場における最大の被害者を出している建設業については、令和3年5月17日、労働者のみならず一人親方に対しても国の責任を認める最高裁判決が言い渡されました。国は、建設アスベスト給付金法を制定し、建設アスベスト訴訟最高裁判決において「国の責任が認められた者と同様の苦痛を受けている者について、その損害の迅速な賠償を図るため」(同法1条)給付金等を支給して救済を図っています。
それでは、造船業はどうか。国は、「海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)の発効に伴う船舶防火構造規程により、建築物以上に耐火性を要求し、建設業界と同様に石綿の大量使用を促進してきました。そのために、造船業はその就業人員が建設作業従事者より圧倒的に少ないにもかかわらず、建設現場に次ぐ多数の被害者を出し続けているのです。そして、造船作業は、作業環境や作業内容が建設作業と異なるところがなく、移動作業であるため粉じん発散源が一定せず、防じんマスクの着用させることの義務付けなどが有効適切な対策であるということも建設作業と共通します。にもかかわらず、国は、原告ら代理人に対して、造船作業は、建設現場における建設作業従事者ではないという形式的な理由から建設アスベスト給付金法の対象にはならないと回答して、同法による造船作業従事者の救済を拒否しています。これは「国の責任が認められた者と同様の苦痛を受けている者」の救済を図る同法の趣旨に反し、同じ石綿被害者の救済に分断と差別を持ち込むものと言わざるを得ません。また、工場型国賠訴訟において業種、業態を問わず、局所排気装置による粉じん対策が有効適切であれば、救済の対象が広がっていることと権衡を失します。
本件訴訟の意義と目的は、国賠訴訟を通じて、国に造船作業による被害についても建設作業と同様に責任があることを明らかにすることにより、被害の早期救済に踏み出すことを求めることにあります。
3 国は、造船作業従事者に対しても建設作業従事者と同様に責任を負うこと
国は、原告ら代理人に対する回答のなかで、建設アスベスト最高裁判決は、建設現場における石綿ばく露の危険性に関する認識可能性に基づき、屋内建設作業従者との関係で国の規制権限不行使の有無、内容について判示したものであり、造船作業従事者に関する事案とは異なるとしています。
しかし、造船作業は、建設作業と同様の作業環境で、建設作業と同様の石綿含有建材や製品の切断、加工等の作業を行ったものであり、建設作業と同様に石綿粉じんにばく露することにより石綿関連疾患に罹患する広範かつ重大な危険性が存在していたと言えます。また、石綿関連疾患に関する医学的知見の集積状況、石綿粉じん対策・規制強化の必要性等に関する国の認識は建設作業と造船作業とは全く共通します。そして、国は、建設作業の場合と同様に、造船現場での濃度調査を行えば造船作業従事者にも広範かつ重大な危険が生じていたことを把握できたというべきです。防じんマスクの使用義務づけや警告掲示(表示)などの石綿粉じんばく露の回避措置の義務付けに障害となるような事情もなかったことなども、建設作業の場合と異なるところはありません。
そうすると、国は、造船作業従事者に対する関係でも、建設作業者と同様に、規制を怠った責任を負うべきです。
4 本件の審理にあたって裁判所に対する要請を述べます。
第1に、被害者、遺族の話に耳を傾け、アスベスト被害の深刻さを肌身で感じ、わかっていただきたいということです。病気のために仕事や生活を奪われ、懸命に苦しい治療しても効果がなく、激しい肉体的・精神的苦痛のなかで愛する家族を残して無念のうちに死んでいかなければならない理不尽さ、それを見守るしかない家族の辛さ、いつまでも癒えることのない遺族の悲しみに思いをいたして、本件審理に臨んでいただくようお願います。
第2に、泉南アスベスト訴訟最高裁判決、建設アスベスト訴訟最高裁判決とアスベスト被害に関する国の責任を認める司法判断が積み上げられてきたことを踏まえた審理・判断をお願いいたします。
第3に、和解を含めた早期解決への裁判所のご尽力をお願いします。
以 上
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