アスベスト労災記録の「誤廃棄」、遺族が国を提訴
2022.09.17アスベスト被害者の遺族が、労働基準監督署に労災記録を「誤って廃棄された」のは違法だとして、2022年9月15日、国に損害賠償を求める訴えを神戸地裁に起こしました。
被害者は、1989(平成元)年頃から1998(平成10)年頃まで、建設現場で、押出成形セメント板(ノザワ製のアスロック)の下地作業に従事した際、石綿粉じんにばく露しました。
2003(平成15)年1月に中皮腫を発症し、わずか半年後の同年7月に54歳で死亡。
2008(平成20)年に労災認定されました。
建設アスベスト訴訟最高裁判決等のマスコミ報道を見て、昨年(2021年)9月に遺族が大阪アスベスト弁護団に相談。労災記録を情報開示請求したところ、「誤廃棄」が判明しました。開示の際には何の説明もなく、担当弁護士からの指摘で、加古川労働基準監督署が「誤廃棄」を認めたことから明らかになったものです。
遺族は、今年(2022年)3月、建設アスベスト大阪4陣訴訟の原告として、ノザワを被告とする建材メーカー訴訟を大阪地裁に提起。同業者の聴取書など石綿粉じんばく露の実態を立証するための重要な資料が廃棄されているため、立証手段が限られ、ノザワの責任追及が困難になる恐れがあります。
アスベスト労災記録などの文書は、2005(平成17)年通達により「永年保存」とされていますが、2015(平成27)年の厚労省の調査では、「誤廃棄」が全国で約6万4000件に上るとされています。
本件の「誤廃棄」の経緯や労働局・労基署の対応を見ると、国が、アスベスト労災記録の重要性を十分認識しているとは思えません。
国には、本件訴訟を契機に、厳重な取扱いが徹底されるよう、改めて注意喚起と再発防止を求めます。
○遺族のコメント
父のアスベスト被害について弁護団に相談し、はじめて労災記録が廃棄された重大性を認識しました。
記録が廃棄されて連絡を受けていても、私のようにその重大性に気づいていない方は、他にもおられるのではないかと思います。
アスベスト被害者・遺族に対し、追い打ちのように国が廃棄してはいけない記録まで廃棄するなんて、許すことができません。
今後も同じことが起こり、被害者・遺族が私のように苦しむことのないように、この裁判の原告となることにしました。
【解説】
○石綿に関する文書(特に石綿被害に関する労災記録)の重要性
・アスベストの病気は数十年の潜伏期間を経て発症します。
労災記録は、労災給付のために利用されるだけでなく、石綿被害発生に関する原因の究明や加害者への責任追及の場面で、ほぼ唯一の資料となるのが実情です。とりわけ被害者が亡くなっている場合、遺族にとって、いわば「生命線」であり「命綱」とも言える貴重な証拠資料となります。
・建設アスベスト被害の補償・救済手続としては、国に対する建設アスベスト給付金の請求の他、建材メーカーや雇用主(事業者)に対する加害責任の追及(損害賠償請求)があり得ますが、石綿ばく露実態の立証(特に建材メーカーに対する訴訟では、主にどの建材によって石綿ばく露したかの立証)が不可欠です。
弁護士が被害者や遺族から相談を受けた場合は、「いの一番」に労災記録を開示請求します。そのくらい被害・加害を把握する出発点となる重要な資料です。
・本件原告にとっても、労災認定時には同業者の聴取書(現在は連絡が取れなくなっており復元は不可能)が存在したことが判明しています。これが残されていれば、石綿ばく露実態の立証、特に加害者(建材メーカー)を特定するための極めて重要な資料となっていました。
・労基署は、「誤廃棄」が判明した被害者・遺族に対して形ばかりの謝罪文を送付していますが、過去の労災記録が廃棄された事実を知らされただけでは、何の問題や不利益があるのか分かりません。具体的な被害救済について弁護士などに相談して初めて、「誤廃棄」の重大性が分かるのです。
・国(厚労省)は、労災記録が「誤廃棄」されていても「労災給付実務に影響はない」などとし、「誤廃棄」の問題性を矮小化しようとしています。しかし、実際にはいったん廃棄されてしまうと取り返しがつかない重大問題です。
○本件訴訟の意義
・厚労省は2度の調査(2015(平成27)年及び2018(平成30)年)を経て、石綿関連文書の保存管理について一定の対策を取りました(石綿関連文書を独立して編綴、行政ファイルへの「常用」の標示や文書へのスタンプ押印、研修での周知、石綿文書管理簿の調製、開示請求があった場合の「誤廃棄」の明示等)。労災記録については可能な限り復元等を努力することも定められました。
・しかし、本件でも、一部の文書が残っていたため「誤廃棄」事案ではないと誤解され、開示請求時に「誤廃棄」であることの明示も漏れていました。厚労省は、労災記録の復元についても積極的でないようです。
このような現状からすれば、本件と同様の「誤廃棄」事案が多数埋もれている可能性があります。また「誤廃棄」防止対策が徹底されているかも大いに疑問です。
・国には、本件を契機に、「誤廃棄」の原因を究明する一方、特にアスベスト労災記録(被害者や遺族にとっての「個人情報」です)の重要性について深く認識し、その厳重な取扱いを徹底することを求めます。
【マスコミ報道】
○NHK兵庫:アスベスト労災認定の記録文書一部誤って廃棄 遺族が国を提訴
○サンテレビ:アスベスト関連死で労災記録を廃棄 遺族が国に損害賠償求め提訴/兵庫県
○神戸新聞:石綿被害の記録誤廃棄 父亡くした男性が国提訴「立証の機会奪われた」 神戸地裁
○MBSニュース:労基署が『永久保存のはずの文書廃棄』…アスベスト被害で死亡した男性の遺族が国提訴
○共同通信:石綿被害の文書誤廃棄で国賠提訴 兵庫の遺族、300万円請求
○時事通信:石綿被害者遺族が国賠提訴 労基署の文書誤廃棄で―兵庫
○読売新聞:労災記録の廃棄「不当」…石綿認定遺族が国提訴
○毎日新聞:「石綿の関連記録を誤廃棄は違法」 遺族が国を提訴 神戸地裁
○日本経済新聞:「石綿文書廃棄は違法」、遺族が国を提訴 神戸地裁
○朝日新聞:石綿の健康被害を巡る文書、労基署に廃棄され「不当」 遺族が提訴へ
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