建設アスベスト訴訟最高裁判決についての報告
2021.06.04(本稿は、自由法曹団大阪支部の支部ニュースで掲載されたものです。)
建設アスベスト訴訟最高裁判決についての報告
馬越 俊佑
令和3年5月17日に建設アスベスト訴訟最高裁判決が出されましたので、報告します。
第1 これまでの経緯と判決の内容
建設アスベスト訴訟は、北海道、東京、神奈川、京都、大阪、福岡の全国6カ所で提訴が行われ、今回判決が出されたのは、神奈川一陣、東京一陣、京都一陣、大阪一陣の四つの高裁判決に対する最高裁判決です。
昨年12月の東京一陣の国の上告に対する上告不受理決定により国の責任が、今年1月と2月の京都一陣と大阪一陣の建材企業らからの上告に対する不受理決定により、建材メーカー10社らが共同不法行為責任を負うことが確定していました。
今回の判決で、大きな争点となったのは、国の責任に関しては、①国が責任を負う期間、②一人親方を救済する理論、③屋外の作業者が救済されるのかの3点、建材メーカーの責任に関しては、建材メーカーの共同不法行為責任を認めるにあたっての民法719条1項後段及びその類推適用の解釈論でした。
まず、国の責任に関しては、①について、神奈川一陣東京高裁判決だけが、昭和56年1月1日から平成7年までが国の責任期間としていましたが、他の高裁判決の始期と終期に合わせて、昭和50年10月1日から平成16年9月30日を国の責任期間としました。②については、安衛法の文言に拘泥して形式的な判断をするのではなく、同法の趣旨、目的を重視して、警告表示義務が物の危険性に着目した規制であり、警告掲示義務が場所の危険性に着目した規制であることから、いずれも一人親方等も保護する趣旨のものと解するとして、一人親方を救済しました。③については、屋外作業の危険性に関して予見可能性がないとして国の責任を否定しました。
建材メーカーの責任については、本件を累積的競合によって被害が発生した事案として、民法第719条1項後段の類推適用によって建材メーカーらの集団的寄与度責任を認めました。同時に、石綿建材が被害者らの就労現場に到達していることについて、石綿建材の種別ごとの市場占有率(シェア)に基づく確率計算による立証方法の適法性も認めました。一方、国責任と同様に、屋外作業の危険性に関して予見可能性がないとされました。
大阪については、大阪高裁判決では救済されなかった一人親方の解体工の被害者について、国の責任が認められることとなりましたが、大阪高裁判決では認められていた屋外者業者に対する積水化学の責任が否定されることになりました。
第2 判決の評価
1 評価できる点
今回の判決は、建設アスベスト被害の救済を広げるものであり、基本的には高く評価できるものです。地裁判決では否定され続けていた一人親方に対する国の責任が、高裁段階になって次々に認められてきた流れを受けて、最高裁もこれを是認し、また、建材メーカーらの共同不法行為責任も高裁段階で大きく前進していましたが、それを最高裁が719条1項後段の類推適用という形で認めた点は重要です。平成23年5月の最初の神奈川一陣地裁判決は、国責任も建材企業責任も否定されるという出発点でしたが、全国の原告団、弁護団、支援団体の血のにじむような努力により、救済範囲を広げ大きな成果を勝ち取ることができました。
村松大阪弁護団団長が院内集会において、長年のじん肺訴訟(とりわけ筑豊じん肺訴訟と泉南国賠訴訟)や、公害訴訟(とりわけ大気汚染訴訟)のそれぞれの闘いの重要な到達点であると報告がされましたが、まさにそのとおりです。
この院内集会には多くの国会議員が参加し、参加した全ての議員から国による給付法の制定に取り組むとの約束がされました。
2 判決の誤りと今後の課題
今回の判決では、屋外作業者の救済が否定されました。これは大きな問題です。屋外であれ屋内であれ、建材を切断等すれば、粉じんは発生します。ズレないように凝視して切断しますから顔を近づけているので粉じんを吸い込みます。にもかかわらず、風によって拡散するなどとして予見可能性を否定し、救済を拒否した最高裁判決は屋外作業の実態を正確に見ない誤った判断です。弁護団としては、今後も屋外作業者の救済を目指していきます。
また、提訴から最高裁判決までがあまりにも長すぎました。首都圏での最初の提訴から13年が経過し、多くの原告が亡くなりました。私の担当原告も2名が亡くなりました。大阪一陣大阪高裁判決の報告の電話をかけた際に、亡くなったとの報告をした奥さんの声が耳から離れません。最高裁判決を見ることもなく、今年の1月に亡くなった原告の無念さは推し量れません。
大阪アスベスト弁護団は、全ての被害者が救済されるべく建材メーカーの責任を含めた基金の創設を目指しています。
最高裁判決で多くの救済を勝ちとれたことについて、これまでご支援いただいた皆様に御礼申し上げるとともに、今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
以 上
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