建設アスベスト訴訟-13年間の闘いに勝利し、第2ステージへ - 大阪アスベスト弁護団

建設アスベスト訴訟-13年間の闘いに勝利し、第2ステージへ

2021.07.19

建設アスベスト訴訟-13年間の闘いに勝利し、第2ステージへ

大阪アスベスト弁護団

弁護士 伊藤明子

1 建設アスベスト訴訟の意義と目標

アスベスト疾患に関する行政認定(労災認定、石綿救済法認定)の約半数は建設作業従事者に集中しています。建設アスベスト被害は、現在でも、労災認定者が約9300人、石綿救済法認定者(一人親方等を含む)を含めると1万5000人近くにも上ります。今なお毎年600人規模で増え続けており、厚労省は30年後までの被害者数を3万人超と推計しています。建設アスベスト被害は、わが国最大の労働災害であるとともに、最悪のユーザー被害(欠陥商品被害=公害)でもあります。

このように被害が拡大した根本的な原因は、建材メーカーと国にあります。すなわち、建材メーカーは、早くからアスベストの危険性を知悉していたにも関わらず、意図的にこれを隠し、安全性アピールまで行いながら、長期に亘って大量の石綿建材を製造・販売し続けました。一方、国は、建設作業従事者の命や健康を守るための規制は行わないまま、建築基準法で不燃材・耐火構造に指定するなど、建材メーカーと一体となって石綿建材の普及促進を図りました。もとより労働者に対する安全配慮義務を怠った使用者(ゼネコンなど)にも責任がありますが、現場特定の困難等からその法的責任を追及できるケースは極めて限定されます。また、建設現場では、労働者と同じ石綿ばく露実態がありながら、労働者性が認められない被害者(いわゆる一人親方・中小事業主)が建設業全体の約3割に上るという実態があります。

建設アスベスト訴訟は、全ての建設アスベスト被害者を救済する基金制度の創設と万全な被害防止策を最終的な目標として提起されました。2008年5月の東京1陣訴訟の提訴を皮切りに、全国6地域(北海道・東京・神奈川・京都・大阪・九州)で闘われ、最高裁判決時には、2陣、3陣を含め被害者約1000人(うち7割がご遺族)の集団訴訟になっていました。

2 最高裁判決までの経過

(1)建設アスベスト訴訟は、2012年5月、国にも建材メーカーにも全面敗訴の横浜1陣地裁判決からスタートしました。

同年12月、2つめの東京1陣地裁判決では国に初勝訴しましたが、責任期間は短期間に限定され、かつ、一人親方等に対する責任は否定。石綿被害の救済の場面において労働者と一人親方等で線引きがされる理不尽さは、誰が見ても明らかです。ところが、労働関係法上は「労働者」と「事業主」は画然と区別されており、国は、一人親方等が石綿被害を受けたのは自己責任だと主張。この理不尽を克服する苦難の道のりは、2018年3月の東京1陣高裁判決まで続きました。

一方、建設作業従事者が石綿被害を受けた原因は石綿建材にあり、建材メーカーに過失があることは明らかでした。しかし、数十年にわたる数百の現場で、長期の潜伏期間があり、そもそも被害者はどれが石綿建材かも知らされていないという中で、因果関係の立証は困難を極めました。当初は原告敗訴が続き、建材メーカーの責任が初めて認められたのは、2016年1月の京都1陣地裁判決。その後は、各地で勝訴が続きましたが、2018年3月の東京1陣高裁判決では、建材メーカー責任が全面否定されていました。

(2)2020年10月22日、神奈川1陣訴訟について初めて最高裁弁論が開かれました。この時点までに、国に対しては実に14連勝(うち一人親方等に対する国責任は7連勝)、建材メーカーに対しては8回目の勝訴となっていました。

事態が急速に動いたのは、同年12月14日付け東京1陣訴訟の最高裁決定からです。最高裁は、一人親方等に対する国の責任を認めた東京1陣東京高裁判決について、国の上告受理申立を不受理とし、これにより、建設アスベスト訴訟において初めて国の責任が確定。しかも、その責任が労働者のみならず、一人親方等に対しても及ぶことが確定しました。悲願が成就し、一抹の不安から解放された瞬間でした。

この最高裁決定を受けて、同年12月23日、田村憲久厚生労働大臣が、東京1陣訴訟の原告らと面会して謝罪するとともに、解決に向けた協議の場を設けるよう指示しました。これを契機に、世論も政治も、建設アスベスト訴訟の解決へ向けて大きく動き出します。

(3)2021年1月28日には京都1陣訴訟の最高裁決定がなされ、建材メーカー8社の責任が確定。京都1陣高裁判決だけが認めていた集じん機付電動工具の使用義務付けを怠った国の責任も確定しました。

また、同年2月22日には大阪1陣訴訟の最高裁決定がなされ、建材メーカー7社の責任が確定。さらに、大阪1陣高裁判決だけが認めていた1991年末時点で石綿建材の製造使用禁止措置を怠った国の責任と、国の責任割合について2分の1(他の高裁判決は3分の1)という判断も確定しました。

こうして最高裁判決までに、一人親方等に対する国の責任も建材メーカーの責任も確定しており、最高裁が判決でどのような理由を示すのかが注目されていました。また、原告らの要望を受け止めて、同年2月18日に自民党・公明党の「与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム」(与党PT)が結成され、精力的な活動が始まりました。

3 最高裁判決の到達点と限界

(1)国の責任

2021年5月17日の最高裁判決は、国は、1975年(吹付作業の場合は1972年)10月1日から2004年9月30日までの間、事業主に対し、屋内作業者が石綿粉じん作業に従事するに際し防じんマスクを着用させる義務を罰則をもって課すとともに、建材への適切な警告表示(現場掲示を含む)を義務付けるべきであったにもかかわらず、これを怠ったことは著しく不合理であり、国賠法1条1項の適用上違法であると判示しました。

同時に、安衛法の警告表示義務が物の危険性に着目した規制であり、その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られないこと、また、警告掲示義務が場所の危険性に着目した規制であり、その場所で危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮し、安衛法2条2号の定義に該当しない労働者も保護する趣旨のものと解するとして、一人親方等に対する国の規制権限不行使の違法を認めました。

国の責任が認められた主な職種は、大工、内装工、電工、吹付工、左官工、塗装工、タイル工、配管工、ダクト工、空調設備工、鉄骨工、溶接工、ブロック工、保温工、鳶工、墨出し工、型枠大工、解体工、はつり工、築炉工、エレベーター工、サッシ工、シャッター工、電気保安工、現場監督など、屋外作業従事者を除く多種多様な職種に及びます。

(2)建材メーカーの責任

建材メーカーについては、1975年頃から警告表示義務違反の違法が認められていましたが(注意義務の始期・終期は高裁判決によって異なっており、最高裁においても確定していません)、最高裁判決は、一定のシェアがあった建材メーカーについて、民法719条1項後段の類推適用による共同不法行為責任(連帯責任)を認め、寄与度に応じた損害賠償責任を負うべきであると判示しました。

また、特定の建材メーカーが製造販売した石綿建材が特定の被害者が従事した建設現場に相当回数にわたって到達していたこと(建材現場到達事実)の立証について、シェアを用いた確率計算を考慮した立証方法に合理性があると判示しました。

最高裁では、建材メーカー10社(ニチアス、ノザワ、エーアンドエーマテリアル、エム・エム・ケイ、太平洋セメント、神島化学工業、日鉄ケミカル&マテリアル、大建工業、日東紡績、バルカー)の責任が確定しました。

(3)最高裁判決の評価

建設現場の実態を直視し、かつ、安衛法の趣旨・目的を重視し、一人親方等を労働者と区別せず広く救済した最高裁判決は歴史に残る大きな勝利です。また、建材メーカー責任の因果関係の立証の困難性に鑑み、被害者保護の見地から、原告側が主張していた立証手法を是認した点も極めて画期的です。

もっとも、最高裁は、屋外作業従事者(屋根工)については、自然換気によって石綿粉じん濃度が希釈されるなどとして、国、建材メーカーともに予見可能性を否定し、救済の対象外としました。石綿粉じんばく露の実態を無視した不当な判断であり、今後、是正されるべき重要な課題です。

4 国との基本合意及び給付金制度の創設

最高裁判決翌日の2021年5月18日、菅義偉首相が官邸で原告代表らに直接謝罪し、国との間で基本合意書を締結。これらを受けて、同年6月9日、国が未提訴の建設アスベスト被害者に給付金を支給する制度「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立しました。この間の経過は前号でご報告いただいたとおりです。

給付金制度では、最高裁判決に従って、1975年(吹付作業の場合は1972年)10月1日から2004年9月30日までの間、屋内作業場で建設業務に従事し、石綿関連疾患を発症した方・そのご遺族に対し、病気等に応じて550~1300万円の慰謝料が支払われます。給付金の請求は各地の労基署に申請することになっており、来春には制度の運用が始まる見込みです。

また、最高裁判決時に係属中であった2陣・3陣訴訟、差戻しになった1陣訴訟の原告については、基本合意に基づく国との和解協議が始まっています。

5 心機一転、第2ステージへ

最高裁判決から法律制定までは正に激動の23日間でした。給付金制度により、多くの未提訴・将来の被害者が救済されることになり、13年間の闘いは大きな実を結びました。

今後は、建材メーカーにも、早期の和解や基金への参加・拠出など加害責任を果たさせるべく、建材メーカーに対する大量提訴などに取り組む予定です。さらに、最高裁で不当な線引きをされた屋外作業従事者や責任期間外も含め、全ての被害者が簡易迅速に救済されるよう、引き続きあらゆる努力を続けます。

国との基本合意書では、今後、石綿被害を発生させないための対策や、治療・医療体制の確保についても、原告らと継続協議することが約束されています。建設アスベスト訴訟の大きな前進を機に、全てのアスベスト被害の救済・根絶に向けた新たな動きをつくりたいと思います。

 

判決日

国の責任

企業の責任

労働者

一人親方等

2012年5月25日
神奈川1陣横浜地裁判決

×

×

×

2012年12月5日
東京1陣東京地裁判決

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×

2014年11月7日
九州1陣福岡地裁判決

×

×

2016年1月22日
大阪1陣大阪地裁判決

×

×

2016年1月29日
京都1陣京都地裁判決

×

2017年2月14日
北海道1陣札幌地裁判決

×

×

2017年10月24日
神奈川2陣横浜地裁判決

×

2017年10月27日
神奈川1陣横浜高裁判決

×

2018年3月14日
東京1陣東京高裁判決

×

2018年8月31日
京都1陣大阪高裁判決

2018年9月20日
大阪1陣大阪高裁判決

2019年11月11日
九州1陣福岡高裁判決

2020年1月23日
静岡地裁判決

2020年8月28日
神奈川2陣東京高裁判決

2020年9月4日
東京2陣東京地裁判決

【NPO法人ひょうご労働安全衛生センター機関誌『労働安全衛生』2021年7月号第214号掲載】

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