緊急提言「アスベスト被害の完全救済に向けて」(石綿被害救済制度研究会) - 大阪アスベスト弁護団

緊急提言「アスベスト被害の完全救済に向けて」(石綿被害救済制度研究会)

2021.06.18

2021年6月16日(水)、石綿被害救済制度研究会(共同代表:吉村良一・立命館大学名誉教授ら)は、建設アスベスト被害給付金法(略称)における簡易迅速な救済、建材メーカーの「対応の在り方」、救済対象者拡大の課題等について、緊急提言を発表しました。

*石綿被害救済制度研究会[緊急提言「アスベスト被害の完全救済に向けて」(2021年6月16日)PDF

アスベスト被害の完全救済に向けて-2021年5月17日の最高裁判決と『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律』の制定を受けて-

2021年6月16日

石綿被害救済制度研究会                 
共同代表 吉村良一(立命館大学名誉教授・民法/環境法)
下山憲治(一橋大学教授・行政法)      
村山武彦(東京工業大学教授・リスク管理論) 
森裕之(立命館大学教授・財政学)      

【研究会事務局】〒530-0047大阪市北区西天満4丁目3番25号 梅田プラザビル9階 大川・村松・坂本法律事務所
弁護士 村松昭夫(大阪アスベスト弁護団団長)TEL:06-6361-0309

◆構成

1.はじめに

2.最高裁5月17日判決の意義と課題
 1) 最高裁判決の特徴
  a. 国の法的責任について
  b. 建材メーカーの法的責任
 2) アスベスト被害救済の新しいステージ
 3) 「基本合意」と「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」の制定について
  a. 「基本合意」の意義
  b. 「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」の制定と簡易迅速な救済に向けて
  c. 残された課題
  d. 「継続的協議」・附則に基づく「検討」に向けて
  e. 建設アスベスト被害者以外の救済のあり方について
3.建材メーカーの「対応の在り方」
 1) 建材メーカーの「対応の在り方」に関する基本的考え方
 2) 建材メーカーの公平、公正な資金拠出に向けて
 3) 必要となる拠出額等について
4.救済対象者拡大の課題
 1) 救済対象者を拡大する必要性
  a. 司法救済の対象外とされた被害者
  b. 石綿粉じんばく露実態と被害発生
  c. 国と建材メーカーの責任の重大性
 2) 救済対象を拡大する法理
  a. 建設アスベスト被害における国と建材メーカーの「責任」
  b. 調査・研究義務の重要性
 3) 製造禁止後のばく露及び除斥期間経過後の被害者
 4) 全ての建設アスベスト被害者の救済を

 

◆本文

1.はじめに

アスベストによる被害は、労災、大気環境の汚染、商品使用、産業廃棄物といった、様々なタイプの汚染(ばく露)が複合した社会的(人為的)災害(複合型の社会的災害)であり、また、過去に人体・商品・環境に蓄積した有害物質が長期間を経て被害を発生させる、ストック型災害である。被害を受けるタイプも様々で、職場の汚染により労働者が被害を受ける労災型、労働者の家族が被害を受ける労災関連型、アスベスト関連事業場の周辺の住民に被害が出る公害型、関連事業場が周辺にあるといった事情がないがアスベストが含まれた環境にばく露した環境型等、多様に渡っている。

アスベスト被害のうち、労災型については、労働者災害補償保険法による労災補償が行われる。しかし、それ以外については特別の救済制度がなかった。2005年の「クボタショック」で非労災型の被害が顕在化し、2006年に石綿健康被害救済法(以下、石綿救済法)が急遽制定された。しかし、労災補償と比較して救済内容には大きな差がある。

アスベスト被害救済を求める損害賠償訴訟が多数提起されているが、そこでは、アスベストの複合的な災害としての特質から、複合的な責任のあり方が問題となっている。また、国にも、規制を行うべき事態が生じていたにもかかわらず踏み切らなかったことによる責任が問われている。

これらの訴訟のうち、建設作業従事者らが起こした建設アスベスト訴訟において、最高裁第一小法廷は2021年5月17日、神奈川一陣、東京一陣、京都一陣、大阪一陣の4つの訴訟について、「一人親方」を含めて国の法的責任を認め、建材メーカーについても、一定の市場シェアを有する建材メーカーに法的責任を認める判断を確定させた。今回の最高裁判決は、アスベスト被害救済制度に関する議論の新たなステージを切り拓くものである。その後、国と原告らが基本合意を交わし、2021年6月2日に与野党一致の議員立法として「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律案」が衆議院厚生労働委員会に提案され、6月9日に参議院において可決・成立した。

われわれは、2020年5月に、アスベスト被害の救済に関心を持つ研究者、医師、弁護士、その他の関係者からなる研究会(「石綿被害救済制度研究会」)を組織し、アスベスト被害救済のあり方について検討を重ねてきた。その立場から、最高裁判決やその後の議論、給付金支給に関する法制定等の動きを視野に入れて、アスベスト被害救済を前進させるために何が必要かについて、緊急に提言することとした。

 

2.最高裁5月17日判決の意義と課題

1) 最高裁判決の特徴

a. 国の法的責任について

最高裁は、今回の判決において、「主務大臣の安衛法に基づく規制権限は、労働者の労働環境を整備し、その生命、身体に対する危害を防止し、その健康を確保することを主要な目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく、適時にかつ適切に行使されるべきものである」とし、いわゆる屋内作業従事者に対し、昭和50(1975)年10月1日(改正特化則施行時)から平成16(2004)年9月30日(安衛法の製造禁止施行時)までの期間について、国の規制権限不行使による賠償責任を認めた。アスベスト被害における国の規制権限不行使による責任は泉南アスベスト国賠訴訟最高裁判決において、すでに認められているが、工場とは異なる建設現場におけるアスベスト被害について、その考え方を維持し法的責任を認めたことの意義は大きい。

さらに重要なことは、建設作業に従事する者として人数も多い、いわゆる「一人親方」についても、「安衛法57条は、健康障害を生じるおそれのある物についてこれらを表示することを義務づけることによって、その物を取り扱う者に健康障害が生じることを防止しようとする趣旨のものと解されるのであって、上記の物を取り扱う者に健康障害を生じるおそれがあることは、当該者が安衛法2条2号において定義された労働者に該当するか否かによって変わるものではない」「安衛法57条は、これを取り扱う者に健康障害が生じるおそれがあるという物の危険性に着目した規制であり、その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると、所定事項の表示を義務付けることにより、その物を取り扱う者であった労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である」、「本件掲示義務の規定は、特別管理物質を取り扱う作業場という場所の危険性に着目した規制でありその場において危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると、特別管理物質を取り扱う作業場における掲示を義務づけることにより、その場所で作業する者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当」として賠償を認めたことである。

b. 建材メーカーの法的責任

建設アスベスト訴訟では、アスベスト建材を製造・販売してきた建材メーカーの法的責任も問題となった。建材メーカーが多数に上り、また、建設作業従事者の関わった現場も多数に上るため、因果関係が問題となり、下級審段階では法的責任を否定する判決もあり、最高裁がどのような判断を出すか関心がもたれていた。最高裁は、マーケットシェアと確率論を用いた原告らの立証手法を取り入れて、民法719条1項後段の類推適用という考え方によって、一定数の建材メーカーの法的責任を肯定した。

 

2) アスベスト被害救済の新しいステージ

以上の結果、アスベスト被害救済をめぐる議論は、労災補償や石綿救済法という法的責任を前提としない制度による救済を越えて、国や建材メーカーの法的責任を踏まえた救済のあり方を目指すという新しいステージを迎えることになった。しかし、以下のような課題も残っている。

①最高裁判決では、屋外作業従事者について、国との関係でも建材メーカーとの関係でも、予見可能性が消極的にとらえられ、責任が否定された。また、国の責任期間も限定されている。

②民事訴訟という紛争解決の性格上、その直接の効力はこれら4訴訟の原告にとどまっており、それ以外の訴訟係属中の原告を迅速救済するという課題がある(4訴訟の原告数は約500名であり、全提訴者約1200名中の一部である)。進行性で悪性度の強い被害の性格上、これらの原告被害者の救済を(確定判決を待つことなく)急ぐ必要がある(この4つの訴訟でも、係争中に多くの被害者原告が亡くなっている)。

未提訴の多くの被害者(厚生労働省の試算では、現在確認されている被害者に今後30年間に増加する被害者を加えると3万1000人に上るとされている)の救済という重大な課題がある。これらの未提訴被害者の救済を、今回の判決を機に一気に進める必要がある。

④最高裁は共同不法行為規定の類推適用により建材メーカーの責任を認めるという、それ自体適切妥当な判断を明示したが、責任が認められる企業とその責任の範囲について、統一的な基準を示さなかった。程度に差はあっても、建材メーカーが製造・販売したアスベスト建材が被害発生に寄与したことは明らかであり、また、建材メーカーに警告表示に関する義務違反があったことは、最高裁判決において確認されている。したがって、被害者救済に建材メーカーが寄与すべきことは、原因者負担原則から見ても当然のことであるが、その関わり方については、最高裁判決を越えて、議論・検討を深める必要がある。

 

3) 「基本合意」と「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」の制定について

a. 「基本合意」の意義

最高裁判決の翌日である5月18日に、国(田村憲久厚生労働大臣)と原告団・弁護団は「基本合意」を交わした[1]。これは、この問題について判決以前から検討してきた「与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム」(以下、与党PT)の取りまとめを踏まえたものであり、基本合意において、与党PTの野田毅座長と江田康幸座長代理が「立会人」として署名している。その内容は最高裁判決を前提とした救済を後続訴訟の原告だけではなく未提訴の被害者にも広げるものであり、先に指摘した最高裁判決の限界を乗り越えるものとして重要な内容を持っている。

b. 「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」の制定と簡易迅速な救済に向けて 

2021年6月9日、国会は、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」(以下、新法)を成立させた。新法は、昭和47(1972)年10月1日から同50(1975)年9月30日の間にアスベストの吹き付け作業にかかる業務に従事して石綿関連疾病に罹患した労働者・一人親方(又はその遺族)、昭和50(1975)年10月1日から平成16(2004)年9月30日の間に一定の屋内作業場で行われた作業に係る業務に従事することによって石綿関連疾病に罹患した労働者・一人親方(又はその遺族)に、申請に基づき、最高1300万円の給付金を支給(認定は「特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会」による)するというものである。新法は、冒頭の第1条で、「石綿にさらされる建設業務に従事した労働者等が石綿を吸入することにより発生する中皮腫その他の疾病にかかり精神上の苦痛を受けたことに係る最高裁判所・・・判決において、国が労働安全衛生法に基づく権限を行使しなかったことは、労働者の安全及び健康の確保という同法の目的等に照らして著しく合理性を欠くものであるとして、国の責任が認められたことに鑑み、これらの判決において国の責任が認められた者と同様の苦痛を受けている者について、その損害の迅速な賠償を図るため、特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給について定めるものとする」として、最高裁が国の法的責任を認めたことを受けて、損害賠償としての「給付金等の支給」を行うものであることが明記されている。

また、新法附則2条は、「国は、国以外の者による特定石綿被害建設業務労働者等に対する損害賠償その他特定石綿被害建設業務労働者等に対する補償の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」としている。

新法の制定は、未提訴の被害者の救済を実現する上で重要なものであり、本研究会としては、この法律に基づく救済が迅速かつ実効性ある形で行われるよう望むものである。そのためには、以下のような点が重要であると考える。

① 受給資格を有する可能性のある者に対する個別周知

厚生労働省は、労災認定(労働基準監督署)またはじん肺管理区分決定(都道府県労働局)を受けた者に係る情報をもっている。また、環境再生保全機構は、認定調査の過程で入手した資料や「被認定者に関するばく露状況調査」に対する回答によって、回答者などが就業した業種・職種等に関する情報をもっている。これらの情報を活用して、給付金の対象となる可能性のあるものに対して、将来的に継続することを含めて、個別周知を行うことがきわめて重要かつ有意義である。

泉南アスベスト国賠訴訟の和解では、数次にわたって個別周知が行われて、成果をあげている。加えて、石綿救済法の成立後、環境省と厚生労働省は過去各々一度ずつ、保健所が保有する情報に基づいて、中皮腫で死亡された方の遺族に宛てて、救済制度と労災保険制度双方があることを周知する事業を行い、非常に大きな成果をあげている。また、石綿救済法において、その対象疾病となっていない良性石綿胸水、管理区分制度をもたない石綿肺、さらには、労災認定基準と比べて判定基準が狭いため救済法認定を受けられなかった肺がんとびまん性胸膜肥厚についても、新法に基づく給付金の対象になりうることを考えると、石綿救済法申請が不認定とされた者であっても、建設作業従事者であったことがわかっている者に対しては、周知を行うべきである。

② 立証負担の軽減

泉南アスベスト国賠訴訟の和解では、和解要件の立証は請求者に負わされているが、「遺族が和解手続のために国に対して損害賠償請求訴訟を提起している又は予定している場合」は、死亡労働者の労災保険給付等に関わる情報開示に便宜が図られている(令和2(2020)年3月26日付け基補発0326第1号等「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づく遺族等からの開示請求に係る対応について(周知)」の一部改正について」)。この通達では、「いわゆる『建設型訴訟』に係る開示請求については、現在、国家賠償責任の有無について係争中である」として、除外されているが、新法の運用では、工場型と同じ取り扱いにするとともに、請求人が自ら開示請求をして情報を入手せずとも、給付金の支給に関わる調査において、それらの情報を厚生労働省自らが活用すること、また、環境再生保全機構が保有する情報についても、同様に、請求人に負担を負わせずに、厚生労働省が入手して活用する仕組みをつくることが望まれる。

③ 審査会のあり方について

新法16条1項は、「厚生労働省に、特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会(以下この条において「審査会」という。)を置く」と規定している。この審査会には、新法制定の基礎となった基本合意の一方当事者であり、今後も国と継続的協議を行っていくことが合意されている「建設アスベスト訴訟全国連絡会」からの推薦による委員を含めるべきである。

また、審査会は、新法が、「国の責任が認められたことに鑑み、これらの判決において国の責任が認められた者と同様の苦痛を受けている者について、その損害の迅速な賠償を図るため」(同法1条)に制定されたものであるという趣旨を踏まえて、認定の審査を行うべきである。その際、国会の審議において、職種により形式的に「屋外作業従事者」であることを根拠として一律に切り捨てるのではなく、個々の被害者の就労実態に即した認定を行うべきことが確認されていることにも留意すべきである。

c. 残された課題

基本合意と新法は、一部建材メーカーについては最高裁において責任が認められたにもかかわらず、建材メーカーの関り方が盛り込まれていないという限界を持っている。アスベスト建材を製造・販売し、相当の経済的利益を得てきた建材メーカーの責任を不問に付して国のみが責任を負担するということは、公平性の観点から見て問題である。加えて、新法による給付額については、与党PTの提案は、国の責任割合について工場型(泉南アスベスト国賠訴訟に基づく)和解が2分の1であることや、建設アスベスト訴訟では国の責任割合を3分の1とする裁判例が大半であることを踏まえて設定されたものとされている。そうであれば、国との関係で被害者に対する補償が新法の基準でなされたとしても、建材メーカーの「関わり方」(建材メーカーによる補償)がこの制度に盛り込まれなければ、被害者救済は極めて不十分なものにとどまってしまうことになる。

さらに、基本合意と新法は、最高裁判決に基づくものとされているため責任が否定された屋外作業従事者については対象に入れられていない。また、国の責任期間も限定されている。これらの限界が克服されなければ、建設アスベスト被害者の救済のあり方としては大きな課題が残ることとなる。

*建材メーカーの「対応の在り方」の具体化の必要性については、判決後の各紙社説でも、以下のように、異口同音に指摘されている。

毎日新聞2021年5月18日社説:「広く流通させた責任がメーカー側にはある。建材に含まれる石綿の量に応じて、救済のための資金を拠出すべきであろう」。

同日の読売新聞の社説:「国は早期の被害者救済に向け、メーカーとの協議を急ぐ必要がある」。

同日の日本経済新聞の社説:「補償にあたり、メーカーが応分の負担をするのは当然だ」。

5月19日(基本合意と菅総理の謝罪後)の朝日新聞社説:「原因物質を使った製品で利益を上げてきた企業が、このまま背を向け続けては、社会の理解は得られまい。石綿に関する警告を怠ったのは訴えられた企業だけではない。同じように製品を製造・販売したところは責任を受け止め、基金に相応の額を拠出するのが筋だ」。

d. 「継続的協議」・附則に基づく「検討」に向けて

以下の3および4で、建材メーカーの「対応の在り方」救済対象者の範囲(屋外作業従事者と期間外被害者の救済)、の2点について、これまでアスベスト被害救済について総合的な視点から検討してきた研究会としての基本的な考え方を提言したい。

基本合意では、「被害者に対する補償に関する事項」が国と建設アスベスト訴訟全国連絡会の「継続的協議」とされている。救済対象者の範囲の問題は当然、この協議事項に入ると考えられるが、建材メーカーの「対応の在り方」も、本合意が与党PTの議論を踏まえていること、そこでは、「最高裁判決や確定した高裁判決は、建材メーカーの責任を明示していることから、建材メーカーや業界等の動きを踏まえつつ、引き続き、本プロジェクトチームにおいて、建材メーカーの対応の在り方について、検討する」とされていること、そして、与党PTの野田毅座長と江田康幸座長代理の2人が「仲介人」として署名していることから、建材メーカーの「対応の在り方」も協議の対象となることは明らかである。この点については、新法の附則2条でも「国以外の者による特定石綿被害建設業務労働者等に対する損害賠償その他特定石綿被害建設業務労働者等に対する補償の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」として、「国以外の者」(建材メーカー)による賠償・補償について「検討」を加え、その結果に基づいて「所要の措置を講ずるものとする」とされている。

今後、これらの点について、国としては、必要な調査も行い(*)、被害者らの声に耳を傾け、真摯な協議・検討を行うことが望まれるが、その際、以下のわれわれの提言が参考にされることを期待する。

*新法の国会審議では、国によるアスベスト製品の製造・販売量等の調査の必要性が委員から指摘されたが、新法の附則に「国以外の者による特定石綿被害建設業務労働者等に対する損害賠償その他特定石綿被害建設業務労働者等に対する補償の在り方について検討を加え」るとされた以上、国としてこの検討に必要な調査を行うことは、同法を施行する国の責任である。

e. 建設アスベスト被害者以外の救済のあり方について

さらに、付言するならば、最初にも触れたように、アスベスト被害は多様であり、社会の広い範囲に広がっている。非労災型被害に対する救済は、現在のところ、石綿救済法によることになる。しかし、同法は、給付内容において限界を持ち、多様な(かつ、今後さらに顕在化するであろう)被害救済の課題への取り組みとしては極めて不十分なものである。新法の成立により、救済の格差はますます広がることになる。その最大の理由は、石綿救済法に基づく救済制度が、「石綿による健康被害の迅速な救済を図るために、民事責任や国家賠償責任とは切り離した幅広い関係者の拠出による行政上の救済制度として構築されるものである」ことによる[2]。その結果、費用負担について、「原因者負担でもなく、公的負担でもない曖昧な負担方法となっている」との指摘がある[3]

このような制度を、本件最高裁判決を含む、多くのアスベスト訴訟において法的責任ないしそれに近い責任が認められるようになってきていること[4]を踏まえ、多様な、そして「静かな時限爆弾」と評されるように、今後さらに増加することが予想される石綿関連疾患に対応するためにも、現在の石綿救済法に基づく救済制度を抜本的に改善(同法の改正又は新法の制定)することが求められている。この課題についても引き続き検討し、研究会として第2弾の提言をしたい。

 

3.建材メーカーの「対応の在り方」

*国は、新法附則2条に基づき、建材メーカーの補償への「対応の在り方」を検討し、早急に、「所要の措置」を講ずべきであるが、その検討にあたっては、以下の点が重要である。

1) 建材メーカーの「対応の在り方」に関する基本的考え方

① 建材メーカーらが基金に資金拠出すべき立法事実は存在している

最高裁判決によって法的責任が確定した建材メーカーは10社であり、シェアが大きくない等の理由で法的責任があるとはされなかった建材メーカー、訴訟の被告となっていない建材メーカーも存在する。しかし、これらの建材メーカーも、アスベスト建材という危険な製品を製造・販売し、建設作業従事者がアスベストにばく露し、重大な健康被害を被るリスクを創出したこと、さらに、その危険性について調査・研究を行い、必要な警告等を行うべき立場にあったにもかかわらず、それらを十全に果たして来なかったことは疑いがない。最高裁も、すべてのアスベスト建材の製造・販売メーカーらが、建設現場での甚大な被害発生に大なり小なり関与していることを基本的前提としている。その上で、損害賠償責任を認めるか否かについては、個別建材メーカーのアスベスト建材の製造・販売行為と各被害者の石綿関連疾患罹患との因果関係(個別因果関係)が、司法判断のレベルで立証し得た否かで判断されたのである。しかし、基金という行政施策への資金拠出にあたって求められる立法事実は、司法判断において求められる個別因果関係の存否ではなく、アスベスト建材の製造・販売メーカーらが、建設現場での甚大な被害発生に大なり小なり関与しているという事実である。したがって、アスベスト建材という危険な製品を製造・販売し建設作業従事者をアスベストにばく露させ健康被害のリスクを創出し、かつ、その危険性についてのなすべき調査・研究や警告等を十全に行ってこなかった建材メーカーは、個別的因果関係が司法上認定されたか否かにかかわらず、行政政策(基金)に応分の関与をすべきである。

ちなみに、公害健康被害補償制度(以下、公健法)では、第1種指定地域の補償給付金の財源(賦課金)を汚染原因者(排出企業)に負担させるにあたって、「民事責任を踏まえた」とはしているが、制度創設の当時、四日市公害判決においてコンビナートを形成していた企業の共同不法行為責任は認められていたものの、賦課金を課せられた個々の排出企業と個別被害との因果関係や法的責任が司法上確定していたわけではない。にもかかわらず、公健法は、わが国の大気汚染全体が被害発生へ寄与しているという事実を立法事実として排出企業らに賦課金を課した。被害発生への責任という点では、公健法がコンビナートと直接関係のない全国のばい煙発生施設等設置者に賦課金を負わせたことに比べ、法的責任が確定されていない建材メーカーとアスベスト健康被害との関係ははるかに強い。建材メーカーらの基金への資金拠出に当たっても公健法のこの経験を大いに参考にすべきである。

② 建材メーカーらは、甚大な被害発生に関与している一方で、相当の経済的利益を得ている

建材メーカーらは、アスベスト建材を製造・販売することによって、「日本史上最大の産業被害」と言われる甚大な建設アスベスト被害(現在でも、労災認定者と石綿救済法認定者を合わせて1万人以上の未提訴の被害者がおり、今後も年間600人を越える被害者が増加し、その数は最終的には3万人を越えると予測されている)を発生させている一方で、アスベスト建材の製造・販売によって相当の経済的利益を得ている点も重要である。

③ 建材メーカーの責任と企業倫理の視点から

建材メーカーらが、被害者救済の行政施策(基金)に応分の関与をすることは、社会のなかで活動し、アスベスト建材を製造・販売して甚大な被害発生に関与してきた建材メーカーの責任であり、企業倫理でもある。建材メーカーは外国企業との技術提携や国際石綿情報会議(IAIC)・国際石綿協会(AIA)での活動等を通じて外国の石綿関連産業と早くから交流しており、外国で先行して生じていた健康被害に関する情報を知り得る立場にあった。にもかかわらず、「管理使用」と称して国内でアスベストの使用を続けたことが被害の拡大につながっており、このことに対する責任は極めて重い。

④ 国が独自の支給制度を創設したこととの関係

建設アスベスト被害を発生させた原因者の内、国は、最高裁判決を受けて、その重大な責任を痛感し、上記の通り被害者に簡易、迅速に給付金を支給する制度を発足させた。一方、アスベスト建材の危険性を警告することなく製造・販売を続け、相当の経済的利益を得てきた建材メーカーが、被害発生に深く関与しながら、被害者救済の行政施策(基金)への関与を拒否し続けている姿勢は、上記の国の対応と比較しても不誠実かつ理不尽である。

⑤ 法的責任が確定した建材メーカーの責任、役割

建設アスベスト被害に寄与したすべての建材メーカーらが基金に資金拠出すべきことは当然であるが、損害賠償責任が確定した建材メーカーらの責任はとりわけ重大である。これら建材メーカーらは、自ら応分の資金拠出を率先して行うことはもちろん、被害の全面的な救済に向けた基金への資金拠出について、建材メーカーらを取りまとめるなどリーダーシップを発揮することが求められており、それが法的責任が確定した建材メーカーの責務である。

 

2) 建材メーカーの公平、公正な資金拠出に向けて

①建設アスベスト被害が文字通り「日本史上最大の産業被害」であることを考えれば、建材メーカーらが、原因者として基金への応分の資金拠出を行い、全面的な被害救済を行うことは当然である。

②問題は、公平、公正な資金拠出のあり方、拠出金の負担割合をどのように算出するかという点である。基本的には、公健法の資金拠出と同様に、各建材メーカーらの建設アスベスト被害全体に対する影響、寄与に応じた資金拠出が公平、公正である

③その場合、建材メーカーごとにアスベスト建材の製造に使用した石綿使用量を調査、算出して、それに基づき建材メーカーごとに資金拠出を割り当てることが基本となる。同時に、国交省データベースや、日本石綿協会による「石綿含有建築材料廃棄物量の予測量調査報告書」アスベスト建材の種別ごとの多数の市場調査資料(シェア資料)、それらに加えて、建材メーカーらからの資料提供やヒアリング等によって、アスベスト建材の種別ごとのアスベスト建材の製造・販売量、石綿使用量、石綿含有率、主要なアスベスト建材の種別ごとの建材メーカーらの市場占有率(シェア)等を概ね把握することが可能であり、さらに、過去の労災認定資料を分析すれば、職種ごとの労災認定者数と、職種別の認定者数の労災認定者全体の中に占める割合等も把握することができる。これに今後解体作業における被害発生が増加することから解体作業の危険性のレベルなども合わせ考慮して、建材メーカーらの建設アスベスト被害発生への影響や寄与をランク付けし(5~10ランク程度)、こうしたランク付けに基づいて資金拠出を行わせるという方法もある。

④また、国としては、新法附則2条に基づく「検討」の一環として、建材メーカーからの資料提供を含めて、必要な調査を行うべきである。

 

3) 必要となる拠出額等について

国は、新法の制定にあたって、その施行に要する経費として給付金等の見込み額を約4000億円としている。これは、現在までの労災認定者等が約1万1500人、今後30年間に亘って労災認定者等が毎年650人増え続けるとして合計で約3万1000人に上ると仮定し、これに一人当たり1300万円を支給するとして算出したものである。

建材メーカーらの責任の重大性を考えれば、建材メーカーらは最低でも上記の国の拠出額と同額を基金に拠出すべきであり、それが今後30年間での資金拠出であることを考えるならば、建材メーカーらがこの拠出金を負担することは十分に可能である。

 

4.救済対象者拡大の課題

1) 救済対象者を拡大する必要性

a. 司法救済の対象外とされた被害者

最高裁判決は、屋外作業従事者について、平成13(2001)年中に国と建材メーカーの予見可能性を認めた京都1陣高裁判決を否定するとともに、昭和50(1975)年1月1日時点で建材メーカーの予見可能性を認めた大阪1陣高裁判決を否定し、国の関係でも建材メーカーの関係でも、屋外作業従事者に対する責任を否定した。

また、最高裁判決は、屋内作業従事者に対する国の責任期間を昭和50(1975)年10月1日から平成16(2004)年9月30日までとし[5]、昭和50(1975)年9月30日までに就労を終了した屋内作業従事者を救済の対象外とした。なお、建材メーカーの責任期間は、概ね昭和50(1975)年頃を始期と判断した原判決が維持されているが[6]、終期は確定していない。

 b. 石綿粉じんばく露実態と被害発生

しかし、屋外作業従事者(*)は、アスベスト建材の切断作業の際に切断箇所に顔を近付けて作業するため、石綿粉じんばく露の実態は、屋内作業従事者と概ね同様であり[7]、その結果、現に、被害が発生していることは明らかである。また、屋外作業従事者とされる屋根工等も、建材の加工を地上や建物内で行うことは一般的であり、石綿粉じんばく露の危険性は屋内作業従事者と異ならない。最高裁も、屋外作業従事者についても、責任期間外の被害者についても、建設現場においてアスベスト建材から発生した石綿粉じんばく露によって被害が発生したこと(因果関係)を否定したものではない。法的責任が認められなかった被害者についても、労災保険法上、石綿関連疾患罹患・死亡につき業務起因性が認められている。

後述するような国や建材メーカーの責任の重大性に鑑みれば、最高裁判決が認めた予見可能性は狭きに失すると言わざるを得ず、また、仮に最高裁が各訴訟において認定された事実に基づいて「法的責任」までは認められないとしたとしても、行政施策としての救済制度においては、建設現場で働きアスベストにより同様の被害を受けた建設作業従事者の一部の救済を切り捨てることは、行政の公平性・平等性から見ても適切とは言えない。その意味でも、司法判断で救済が拒否された被害者を含め、全ての建設アスベスト被害者が対象とされるべきである。

*屋外工が新法の救済対象から外れている点に関し、国会審議において、職種により形式的に「屋外作業従事者」を切り捨てるのではなく、個々の被害者の就労実態に即した認定を行うべきことが確認されている。「屋外作業従事者」の作業実態や石綿粉じんばく露の危険性に鑑み、就労実態に即した柔軟な運用を行うべきである。

 c. 国と建材メーカーの責任の重大性

アスベストの危険性は戦前から国内外で知られており、発がん性も昭和30年代から報告されていた。裁判例においても、昭和33(1958)年頃には石綿肺の、昭和47(1972)年頃には肺がん・中皮腫の医学的知見が確立したとする判断が定着している。また、昭和62(1987)年頃には安全閾値がないという知見が確立し、少量ばく露による危険性も明らかになっていた。

ところが、建材メーカーは、アスベストの有害性・危険性を知りながら、これを警告するどころか、白石綿の安全性アピールまで行い、長期にわたって多種類かつ大量のアスベスト建材を製造・販売し続けた。一方、国は、都市政策・住宅供給政策を推進・実現するために、建設作業従事者の命や健康を守るための規制を行わないまま、建築基準法でアスベスト建材を不燃材・耐火構造に指定するなど、建材メーカーと一体となってアスベスト建材の普及促進を図った。その結果、日本に輸入された約1000万トンの石綿のうち約7割が建材に使用され、甚大な建設アスベスト被害が発生した。

建設アスベスト被害を発生・拡大させた根本的な原因者である国と建材メーカーの責任は重大である

 

2) 救済対象を拡大する法理

a. 建設アスベスト被害における国と建材メーカーの「責任」

宮本憲一教授は、「環境政策というのは、被害の責任を明らかにして、そして対策の主体を明確にしなければいけない」として上で、「責任には、『社会的責任』、『法的責任』、そしてそれらを踏まえた経済的負担を伴う『経済的責任』があると思います。社会的責任とは、企業などの経済主体がその経済活動によって社会に被害を与えないように予防し、被害を与えたときにはその救済責任を持つということです」として、「責任」の多様性を指摘している[8]

元来、責任の中核である「法的責任」自体が多様な内容を持っており、過失責任と無過失責任、さらには、無過失責任を根拠づけるものとしての危険責任や報償責任があり、それぞれにおいて責任を問われる者の範囲や被害発生へのかかわり方は多様である。そして、「法的責任」の対極に、いわゆる「社会的責任」があるが、それにも、社会的存在としての企業が社会に対して負うべき一般的な意味の「社会的責任」と、その活動によって社会に被害を与えないように予防し、被害を与えたときは救済するという意味での、より「具体化・特定化された社会的責任」がある[9]

建設アスベスト被害の場合、国は、建設作業従事者の命や健康を守るための規制を行わないままアスベスト建材の普及促進を図った。また、建材メーカーは、アスベストの有害性・危険性を知りながら、これを警告するどころか、白石綿の安全性アピールまで行い、長期にわたって多種類かつ大量のアスベスト建材を製造・販売し続けた。さらに、後述するように、危険物から国民の健康を守るべき国やそのような製品を製造・販売する建材メーカーには、被害発生を防止するため、高度の調査・研究義務がある。これらのことは、国や建材メーカーの「法的責任」を根拠づけ得るものであり、「法的責任」が認められてしかるべきだが、仮に、最高裁のように予見可能性が認められないとして屋外作業従事者について国や建材メーカーの「法的責任」が否定されたとしても、そのことは、これらの被害を救済することについて一切の「責任」を免れるということにはならない。国と建材メーカーには、これらの者に対しても、「法的責任」ないし少なくとも、「法的責任に準ずる責任」があるというべきであり、その責任は「具体化・特定化された社会的責任」を超えるものである。

b. 調査・研究義務の重要性

最高裁判決を踏まえて、国や建材メーカーがどの範囲で、上記のような法的責任に準じた「責任」を負うかを検討するにあたっては、国や建材メーカーの調査・研究義務が重要な意味を持つ。

最高裁判決も、昭和48(1973)年当時の国の調査義務を認め、建設現場における石綿粉じん濃度の測定等の調査を行えば、屋内作業従事者が石綿関連疾患に罹患する広範かつ重大な危険が生じていることを認識し得たとしている[10]。しかし、アスベストの危険性や建設現場でのアスベスト使用状況に鑑みれば、濃度測定はもちろん欧米諸国の医学的知見や規制状況等についても十分調査すべきであり、それらの調査を行えば、国は、屋外作業従事者についても、また、法的責任期間外の被害者についても、その危険性を予見し得たはずである。

また、建材メーカーは、自社のアスベスト建材の使用状況を最も良く知っており、調査は容易であり、かつ調査を行えば、屋外作業従事者についても、責任期間外の被害者についても、その危険性を認識し得た。さらには、工場労働者の使用者として建材メーカーが負う安全配慮義務違反における予見可能性については、「生命、健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り」るとする裁判例が確立している[11]。建材メーカーは、自社の従業員の石綿関連疾患については、それが屋外作業であっても、昭和30年代から予見可能性が認められ、安全配慮義務違反を問われ得るのである。このこととの比較においても、アスベスト建材を用いて建設作業に従事する屋外作業従事者についても、また、法的責任期間外の被害者についても、救済対象とすべきである。

 

3) 製造禁止後のばく露及び除斥期間経過後の被害者

最高裁判決は、国の責任期間の終期をアスベスト建材の製造・販売が原則禁止とされた平成16(2004)年9月30日とした。しかし、建物の解体・改修工事における石綿粉じん飛散の防止対策が不十分な実態に鑑みれば、今後、この時点より後の解体・改修工事において、新たに石綿粉じんにばく露した被害者が発生する可能性は極めて高い。少量ばく露による石綿の危険性がより一層明らかになり、その製造・使用が禁止された後にもかかわらず、新たにばく露を余儀なくされたのは、前記のとおり大量のアスベスト建材を普及させた国と建材メーカーの責任に他ならない。最高裁が、平成3(1991)年にアスベスト建材の製造・使用を禁止すべきとした大阪1陣高裁判決を是認したことをも踏まえれば、平成16(2004)年10月1日以降に新たにばく露した被害者も救済する必要がある。

さらに、石綿関連疾患は、被害者や遺族がその罹患原因である石綿粉じんばく露を認識・特定しにくいことが特徴であり、それは国や建材メーカーがアスベスト建材の警告表示を含むアスベストの危険性情報の提供を怠った結果でもある。かかる石綿関連疾患の特徴に鑑みて、労災時効救済制度や石綿救済法は20年以上前の死亡被害者についても、一定の要件を満たせば認定対象としている。これら行政認定を受けた建設アスベスト被害者について救済の対象としても法的安定性を害することはないこと等からすれば、行政施策においては除斥期間が経過した被害者についても救済対象とすべきである

 

4) 全ての建設アスベスト被害者の救済を

最高裁判決は国と建材メーカーに対して明確な「法的責任」を認めたが、これは民事訴訟法上の厳格な主張立証責任を尽くした上で認められた「責任」に過ぎず、国と建材メーカーが負うべき「責任」は「法的責任」の範囲には止まらない。国は国民の健康を守るという立場に加えて、アスベスト建材を推奨してきたことなどから、その健康影響について調査・研究すべき高度の義務があり、建材メーカーは自己が製造・販売する製品が建設現場で使われる際の安全性について高度の調査・研究義務があるにもかかわらず、そうした調査・研究義務を履行しなかった。このことは、本来であれば法的責任を根拠づけるものと評価できるものだが、仮にそうでなくとも、少なくとも行政施策(基金)においては、そうした調査・研究を尽くせば屋外作業等の危険性も判明し、規制や対策ができたのに、それをしなかったことから屋外作業従事者等にも被害が発生したという意味で、その非難性は、屋外作業従事者等にも今回の給付金の支給が行われるべきことを根拠づけるものというべきである。

最高裁判決が切り拓いた新しいステージにおける建設アスベスト被害の救済制度においては、救済対象者を最高裁によって「法的責任」が認められた被害者に限定して一部の被害者を除外するのではなく、全ての建設アスベスト被害者に対する制度を構築すべきである。

以 上

 

[1] 菅首相は5月18日に原告らと面会し、謝罪の意を表明している。

[2] 同法の逐条解説(平成18(2006)年6月環境省)では、「国民の健康で文化的な生活を確保すべき責任を負う政府の立場から、国が民事の損害賠償とは別の行政的な救済措置を速やかに講ずることにより、石綿による健康被害の迅速な救済を図るため、本制度が設けられた」、本法による救済給付は「健康被害の原因者に代わって被害者の損害をてん補するものではなく、国が行政的な救済措置を速やかに講ずることにより、健康被害による経済的負担の軽減を図るべく行われるものであ」り、「社会的に気の毒な立場にある石綿による健康被害を受けた者等の負担軽減を、石綿の使用により経済的利得を受けてきた事業者をはじめとする社会全体で引き受けようとするものであり、その意味で、本救済給付は見舞金的な性格を有している」などとされている。

[3] 大塚直「石綿健康被害救済法と費用負担」法学教室326号(2007年)71頁以下。

[4] この全体像については、伊藤明子「アスベスト被害に対する『責任』—裁判例における到達点」環境と公害50巻4号56頁参照。

[5] 吹付作業者に対する国の責任始期は、昭和47(1972)年10月1日から認めた京都1陣高裁判決(大阪高判平30・8・31判時2404号4頁)が確定している。

[6] 建材メーカーの責任始期は、京都1陣高裁判決が最も早く、吹付材について昭和47(1972)年、その他の屋内使用建材について昭和49(1974)年という判断が確定している(前掲)。

[7] 大阪1陣高裁判決は「建築現場における直接の石綿粉じん曝露として、石綿含有建材を顔の前で切断するその作業についてみると、切断の場所が屋内か屋外かの差が大きいものとは考えられない」とする(大阪高判平30・9・20判時2404号281頁)。

[8] 座談会「責任と費用負担をめぐる今日的課題」環境と公害36巻3号(2007年)における発言(37頁)。

[9] ここでいう「具体化・特定化された社会的責任」は、大気汚染における自動車メーカーの「責任」に関する東京地判平14・10・29判時1885・23を念頭に置いたものである。同判決は、(賠償責任を認めなかったものの)「被告メーカーらには・・・・大量に製造、販売する自動車から排出される自動車排ガス中の有害物質について、最大限かつ不断の企業努力を尽くして、できる限り早期に、これを低減するための技術開発を行い、かつ、開発された新技術を取り入れた自動車を製造、販売すべき社会的責務がある」としている。そこでの社会的責任は、社会的存在としての企業体が社会に対して負う一般的な社会的責任に解消できない「より具体化・特定化された責任」である。東京大気汚染訴訟では、被告となった自動車メーカーは、一時金のほかに、都の喘息患者救済制度費用の一部を負担するという和解が成立したが、そのような負担を自動車メーカーがしたことの背景に、判決のこのような指摘がある。

[10] 神奈川1陣訴訟に関する最判令3・5・7裁判所ウェブサイト。

[11] 福岡高判平元・3・31民集48・2・776。

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